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誰もがリーダーになれるコミュニティへ

前回の「僕のCIVICTECH観:非営利団体におけるCIVICTECHとは〜プロジェクト編〜」では、Code for Kanazawaのプロジェクト制について紹介しました。お金が第一ではなく、”自分の住む地域をよくしたい”という強い想いを形にできるのがCode for Kanazawaのプロジェクト制だと考えています。

ただ、プロジェクトというものはプロジェクトの中心人物となるプロジェクトリーダーの存在がとても大きいです。それなのに、通常の仕事と違って、このプロジェクトリーダーはプロジェクト運営のプロではないでしょうし、そもそも一日8時間をこのプロジェクトのことだけに費やすこともできません。
そうした制約の中で、
シビックテックコミュニティのリーダーはどう振る舞っていけば良いのでしょうか?
市民の中からリーダーが出てくる状態を作るためにはどうしたら良いのでしょうか?

今回の「リーダー編」では、シビックテックコミュニティであるCode for Kanazawaのエコシステムを解き明かし、シビックテックコミュニティがスケールするために最も必要な「伴走者」について触れています。


そのプロジェクト、失敗だってよ


プロジェクトは課題保有者の情熱をエネルギーにして作られます。
そのため、最初に強くリーダーシップを発揮して発言したり行動していた方がそのまま自然にプロジェクトのリーダーになるでしょう。
そして、プロジェクトは最初とても活力に満ちあふれています。やりたいことがいっぱいあり、それらが実現すれば地域は必ず良くなると信じることができます。

しかし、実際に活動するにつれ、現実の壁が見えてきます。地域の課題を解決するためにイベントをはじめとして様々な活動をしたり、解決に結びつくためのプロダクトを作っていきます。
ただ、それは思うように解決に結びつかないかもしれません。それどころかプロダクトは完成すら難しいかもしれません。
プロジェクトメンバーは...その状態にだんだんと疲れてきます。
リーダーは...焦りを感じて色々と苦悩するものの、やがて情熱そのものを無くしていきます。

でも、プロジェクトの前に大きな壁があるのは、ある意味当たり前です。簡単に解決できないからこそ、地域の課題として残っているわけですから。
まして、シビックテックコミュニティのメンバーは時間や金銭的な制約の中で活動をしている場合が多いため、適切なタイミングで充分にリソースを割けないでしょう。
だから、道は険しいのが当然です。
そうした苦労が分かっていてなぜやるの?と聞かれれば、それが自分や自分の地域、ひいては社会全体のためになると思っているからです。
もっと言えば、「自分が必要だと感じているから」です。


情熱で動いているからこそ、メンバーへの感謝と尊重が大事


こうした困難なプロジェクト運営を任されるプロジェクトリーダーは会社の仕事のような形とは違う役割を求められます。

ここでは三つご紹介します。

まず、大事なのはメンバーとの関係性です。
会社の場合、リーダーは上長と言える立場であり、プロジェクト全体の責任を負うかわりに一定の権限をもってプロジェクトメンバーに指示を出します。とてもシンプルです。
しかし、シビックテックコミュニティにおいては、単純に指示を受けて動くという話にはなりません。なぜなら、メンバーはお金ではなく、「地域課題解決の情熱」をモチベーションにしているからです。メンバーそれぞれにプロジェクトへの想いがありますので、その想いとは違うことはできません。
リーダーはプロジェクトに参加してくれたメンバーを尊重し、「互いに」感謝の意思を持って活動をすべきです。
こうした考えは、プロジェクトの成果の見え方にも現れます。
プロジェクトの成果は往々にしてプロジェクトリーダーに集中します。それはある意味致し方ありません。でも、シビックテックコミュニティにおいては、プロジェクトリーダーはできるだけメンバーとその成果を共有すべきです。プロダクトを作ってくれたメインプログラマーや毎月のデータ運用をコツコツと担当してくれるデータ運用者、イベントのときに必ず手伝ってくれるサポーターなど、「この仕事をしてくれている○○さんがいるから、このプロジェクトの××が可能になった」と外に発信するのがプロジェクトリーダーの役目でもあると感じています。
決して皆の成果を自分だけの成果のように語ってはいけません。
「情熱」で動いているからこそ、メンバーへの感謝と尊重の気持ちが大事なんです。

次にリーダーは最も働かねばなりません(笑)
リーダーだけにやってもらうのは悪い?いえ、そんなことはないです。自分のプロジェクトですから他に誰がやるのかという話です。
リーダは色々とやることがいっぱいです。プロジェクト全体の方向性はもちろん、メンバーのタスク管理、予算管理、場合によっては広報の窓口や自治体との交渉も受け持つでしょう。でも、リーダーがこうしたことをしっかりやってくれるからこそ、メンバーは実務を安心してこなせます。リーダーが動く姿を見てこそ、メンバーは動けるんです。
なお、リーダー自身がプロジェクト管理的なことが苦手な場合、メンバーに協力を求めてもいいでしょう。苦手なところは苦手と伝え、素直に協力を求めるのもシビックテックコミュニティのプロジェクトリーダーには大事なことかもしれません。

最後に大事なのはプロジェクトメンバーの情熱を燃やし続けられるようにしてあげることです。
会社の仕事であれば「お金を貰ってるんだから」、「仕事だから」とある程度納得できることでも、シビックテックコミュニティではそうはいきません。
エネルギーの源である「情熱」がなくなれば終わりです。
そして、この「情熱」というのはやっかいです。最初はわくわくドキドキしていたプロジェクトも、色々やっているうちに現実を知り、現実と調整しながら妥協もし、いつのまにか気づいてみたらあのトキメキはどこへ…という誰かの恋愛相談みたいな状態に陥ります。
飽きちゃうんでしょうかね。でも、「そんなのはけしからん」なんて言ってもいられません。
そうならないための努力がリーダーには求められます。

例えば以下のようなことが考えられます。

・定期的に成果を対外的にアピールすること
プロジェクトメンバーのやっていることが無意味ではないことが分かります。このときには、できるだけ多くのメンバーが評価されるように工夫してください。これがやりがいにもなります。

・定期的にメンバー全員で楽しく交流すること(できれば顔を合わせて)
美味しいものを食べながら、お酒を飲みながら顔を合わせて交流することは情熱を絶やさないために大事です。話していればまたやる気が出てきたりします。地域によっては、課題に関連するイベントと絡めてもいいかもしれません。

・プロジェクトに期限を設けること
永遠に続くプロジェクトはあってはならないです。必ず期限を設けましょう。プロダクトの運用が始まると、永遠に続くプロジェクトにもなりえますが、その場合でも例えば年度単位で区切るなどして、仕切り直してメンバーを再募集すると良いでしょう。

他にも色々と考えられそうですね!


地域にはリーダーではなく、ともに並走する伴走者こそが必要


「そんな大変なリーダーは自分には無理です」、そういう声が聞こえてきそうです。
以前からシビックテック活動の盛んな地域には必ずキーマンになるような特別な人がいて、その人がいるから動くという話がありました。それは間違いなくその通りでした。
しかし、特別なキーマンという存在はスタートの時には良いものの、そこからさらに拡げていくときに限界が出てきます。また、そもそもキーマンとなる人がいない地域はどうするのかという話もあります。

つまり、キーマンだけに頼る形ではシビックテックコミュニティとしてスケールせず、その結果、キーマンそのものが情熱を失い、その地域のシビックテックコミュニティは沈没してしまうんです。
それを防ぐ一つの方法として有効なのが伴走者の存在です。

伴走者は新米リーダーの悩みに対して適切な助言を与えます。非営利型のシビックテックコミュニティのプロジェクトでは未経験のことがたくさんありますが、そんなときに「こうやってみてはどうか」と教えてくれる存在はとても有り難いです。
どうやってプロジェクトメンバーを集めていくか、どうやって関係者と交渉するか、どうやって宣伝するか、どうやって必要経費を集めるかなど、悩みはつきませんので。

こうした適切な助言を与えて導くことができる伴走者がいるおかげで、その地域では新しいリーダーが誕生しやすくなるのかもしれません。そして、そうやって育ったリーダーは新しい伴走者となって別のリーダーを育てていくという形が構築できると、その地域では安定的なシビックテックコミュニティが作れるのかもしれません。

この伴走者がいるかいないかで大きく変わるというのは、奥能登の子育てアプリNNA!のリーダー坂井さんの気づきによって得られました。リーダーの坂井さん曰く、僕がその伴走者にあたるそうです。
Code for Kanazawaでは複数のプロジェクトが生まれ消えていったものも多いですが、それらはひょっとしたら伴走者がいたか、いないかの差かもしれません。


シビックテックコミュニティを地域でスケールさせるために

シビックテックは市民で課題を解決するところが本質だと僕は考えています。そのためには、特別な人だけがリーダーをやる仕組みではコミュニティとして成長ができません。

「地域におけるたくさんの課題を」
「一定の制限のある時間の中で」
「普通の市民の人たちが課題解決していく」

そのためには誰もがリーダーになりえる仕組みを構築することが大切なのかもしれません。そして、そのリーダーの情熱でメンバーが集まり、プロジェクトが動いていく。
それが、その地域においてシビックテックコミュニティをスケールさせる唯一の方法なのかもしれないと感じました。

この不思議なエコシステムはまだ始まったばかり。Code for Kanazawaでも色々と試しながら今後も進んでいくつもりです。

さて、いよいよ次回で最後です。
経験則の話は今回のここまでなので、次回はその先の夢を語りたいと思います。
非営利型のシビックテックコミュニティが成長した後の地域に、僕が創りたいものの話です。そこまで到達できれば現時点で僕の考えるシビックテックの到達点なので引退するかも(笑)。



著者プロフィール:福島健一郎(@kenchif
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CivicWave運営メンバーの一人。
一般社団法人コード・フォー・カナザワ(Code for Kanazawa) 代表理事、アイパブリッシング株式会社 代表取締役
Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは90都市以上に展開。