
こちらのセッションのモデレータを務めた牧さんに寄稿いただきました。
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オープンデータ1.0からオープンデータ2.0へ しかし現状は...
現時点では、行政のオープンデータは静的な統計データの公開が中心ですが、これからは、地域の課題解決に利用できるデータが必要となります。それには、課題の定義からしっかり議論して、データを協働でつくっていくことが大切になると思います。データの所有権を含め、行政はより市民とともにデータについて考えていかなければいけません。
しかし、行政側のITリテラシーはまだ十分とはいえず、データによる課題解決には程遠いのが現状。その苦労が伺えるセッションとなりました。
▶セッションの背景
「CIVIC TECH FORUM 2017」の公共セクターのメインセッションでのテーマは「Local GovTech(ローカル・ガブテック)。Local GovTech(ローカルガブテック)とは、シビックテック的発想を行政にも活かそうという考え方で、日本ではまだ使われていない言葉です。”Local GovTechとは何か?”について、具体的な課題例だけではなく、それを支える思想や、今自治体職員が聞きたい話をコンセプトに以下の3部構成で企画しました。
Local GovTechにすでに取り組み始めている方々を交えて、思い描く少し未来の姿や挑戦、初めて取り組んだことなど、身の丈から始めるLocal GovTechについて語りあいます。
一部:Local GovTech普及に必要な自治体職員のITリテラシー向上とワークショップ(講演)
二部:データ駆動時代に求められる行政の姿とは?(パネルディスカッション)
三部:書籍紹介・解説 ”未来政府 プラットフォーム民主主義”(講演)
本稿では、実際に活動されている方々にお話を伺う「一部」と「二部」について紹介したいと思います。登壇者は以下の方々になります。
・竹田正樹氏(ヤフー株式会社 データ&サイエンスソリューション統括本部)
・松崎太亮氏(神戸市企画調整局創造都市推進部ICT創造担当課長)
・田村浩司氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主任研究員)
モデレーター:牧葉子(元川崎市の自治体職員)
▶Local GovTech普及に必要な自治体職員のITリテラシー向上とワークショップ
第一部は、ヤフー株式会社が福岡市や神戸市で取り組んでいるデータ解析セミナーについての具体的なお話です。
ヤフーは、広告・コマース・決済などのデータ活用に関しては、20年間のノウハウの蓄積があります。それらを、CIVICTECHでどう活かせるのか?を模索しており、現在自治体に社員を派遣して、データ解析セミナーを行うなど、データとサイエンスを主軸とした地域支援を行っています。
一方外に目を向けると、オープンデータも単なるデータ公開だけではなく、課題解決を軸としたデータのオープン化が求められています。オープンデータ1.0からオープンデータ2.0へのシフトです。
その中でヤフーは「データを街の中で活かす道を支援できないか?」と考えています。ヤフーはどういうデータを利用すれば予測できるのかのノウハウはもっています。しかし、どうモデル化したらいいのか?は対象領域(観光や交通)の知識がないとできません。そこで、自治体のみなさまとの協働が必要になります。
いきなり「データ活用しよう」というのは厳しく、共通の言語をつくりながら、中期的に計画し、1年ほど前からパイロット的にデータ解析/活用中心のワークショップなどを行っています。
サンフランシスコのデータアカデミーは、パフォーマンス・マネジメントまで意図的に講座に組み込まれており、それを参考に設計したとのこと。
福岡市職員の講座を具体的にあげると、初学者向けデータ解析入門、事例紹介、抱えている課題を演習の対象にするなど、段階的なワークショップを実施しています。いきなり解析手法を学びたいという話もありましたが、地味なところからやっているのは、課題を同じ言語で表現しながらすすめていかないとだめだと感じているからです。
データ解析/活用ワークショップを通して、データの可視化・データ活用実証実験を積み重ねていき、地域の課題解決や活性化を進める一方、オープンデータ・IoT・センサリングデータといった価値のあるデータを組み合わせ、「データエコシステム」を目指したいそうです。企業が持っているクローズドなデータと、行政のもつオープンデータをマッシュアップすると新しいバリューが生まれる世界。つまり、みんなのデータをみんなで使って、さらに磨きをかけていく世界を「ネットの思想に共通すると思っている」と表現されていました。

▶データ駆動時代に求められる行政の姿(パネルディスカッション)
第二部は、「データ駆動時代に求められる行政の姿」というタイトルでのパネルディスカッションです。神戸市でデータアカデミーを企画された松崎氏と、地域経済分析システムRESASのデータ・コンサルティングをした田村氏が加わり、筆者である私(牧)もモデレータとして参加しました。
パネルディスカッションでは、会場からの質問も随時受け付けました。

<行政とITギャップの中で>
Q:交通の分野でも行政とITのギャップに悩んでいる。果たしてこのギャップは埋まるのだろうか?そして、どれくらいの時間をかければマネタイズできるのか?(会場)
という会場からの質問に対して、ヤフーの竹田氏から以下の回答がありました。
ギャップは大きいが絶望感はない。データアカデミーを通して行政のなかにエバンジェリストになっていただけそうな人も出てきている。(竹田氏)
ギャップへの対応としては、「目指すところを段階的に設計し、大きなギャップを作らないようにしている」、マネタイズに関しては、「データを流通させる仕組みから考えないと厳しいと思っている」とのことでした。
松崎氏からは、行政職員のデータ活用をすすめるいく方法として、データのビジュアル化もきっかけになるとのコメントがありました。
データを使うのはいやだというひとも多いけれど、ビジュアル化して見やすくすると "アハ" という瞬間があって、そこから意識改革がありました。

ドコモのモバイル空間統計を花火大会で使い、携帯電話の位置情報からどんな人がどこに集まっているか見たところ、若い人は岸壁、50,60代は奥の方、東京から来た人は駅の近くにしか行かない、という「人流」がわかったとのこと。それがわかると、インバウンド対策にも防災対策にも活かせると意識改革が始まったそうです。
コンテンツチェアの柴田重臣氏からは、「Code for Americaがサンフランシスコなど自治体にフェローと呼ばれるITエンジニアを送りこみ、自治体職員と作業をいっしょにする中で、データだけでなくエンジニア・カルチャーが与えたショックも大きい」との示唆もありました。
<データ駆動というけど、データにも課題あり>
そして、行政の中には山ほどデータがあるという誤解について話が移りました。
田村氏:「データは行政に山ほどあるという誤解があるのではないか。それどころかデータを集めること自体が大変になっていて、人手も足りません。そうなってくると、集めるのではなく、集まってくるデータをどうやって使っていくかという方にシフトしないといけなくなる」
モバイル空間統計やプローブデータの活用には、ビッグデータに関わっている人の知恵が必要です。ただし、統計という側面では、代表性(標本が母集団をよく代表しているかという程度)の確保など別の課題もでてきます。

データそのものに関しては、竹田氏からも以下のようなコメントがありました。
現状を知る段階と施策をつくる段階では違いがあり、後者の段階になるとデータの可視化だけではすまない。いろいろなことが必要になってくるので、皆さんと一緒に考えていきたい
また、多種多様なデータがセンシングができるようになった際には、「データの所有」が誰に帰属するのか?についても考えていき、その資産を活かしていくべき。という視点も提起されました。
▶登壇者からのメッセージ
最後にパネリストのみなさまに、会場のみなさまへのメッセージをいただきました。
松崎氏からは、エンジニアのみなさんへ、行政と一緒に課題を見つけ解いていけるとよい、各地域で新しいチャンネルをつくり産業化できるとよい、行政はCivicTechを受け入れる環境づくりをしていきたいとの呼びかけがありました。
田村氏からは、オープンデータ以前のデータをつくる立場もわかってほしい、眠っているデータをどう価値あるデータにつくっていくか、にもCivicTechのみなさんに目を向けてほしい、また市民ひとりひとりがデータ使用者と提供者の2つの立場で矛盾するという問題提起もありました。
竹田氏からは、データが水と同じような社会インフラになるようなパラダイムシフトが起こるかもしれない、データを預かるビジネスも出てくる、車の自動化でも信号やインフラが変わり、これまでのビジネスが全然変わるかも知れない、この変化を楽しんでいきたいとのメッセージをいただきました。
講演のつぶやきまとめはこちらから。臨場感あるので別の角度から講演を知ることができます。
→togetter(Local Gov Techとは何か?)
また、「LocalGovTechとは?」のセッションのまとめとしてお話いただいた、「書籍紹介・解説 ”未来政府 プラットフォーム民主主義”」の記事もあわせてお読みいただければと思います。
▶グラフィックレコーティング
こちらの講演のグラレコ(by はらだひろこさん、小海敦子さん、山上幸美さん)です。

▶講演動画
ご興味をもってくださった方は、記事にしきれなかった部分もありますので、是非講演動画もご覧ください。
著者プロフィール:牧葉子

国立大学法人豊橋技術科学大学 監事
元自治体(川崎市)職員で、都市と環境のエキスパート。Code for Japan設立時に「自治体対応チーム」として参加。コードフォー神奈川メンバーとして毎月一回のシビックハックナイト開催中