33657985915_0749fe11f9_z

視点は広くもちながらも、小さく着手せよ。それが転がって大きな変化となる。


未来を予測する最良な方法は作ること。振り幅が激しい「今」だからこそ、行動して作りにいったほうがいい。そして、その時には『着眼大局 着手小局』が重要である。(太田氏)

「着眼大局 着手小局」とはその言葉通り、大局(これからの社会の枠組み・あり方)を見ながらも、小さく始め続けていく事(着手)が肝要というキーワード。
基調講演に登壇した太田氏が提示したこのキーワードは、テクノロジーを社会実装していく際の捉え方を端的に示す言葉だったように思います。


セッションの背景

CIVIC TECH FORUM 2017」の基調セッションの一つは「社会の課題とテクノロジーのギャップ〜テクノロジーは課題を解決できるのか〜」というテーマ。
以下2名の基調講演と、両者による対談という構成でした。
・太田直樹氏(総務大臣補佐官)
・麻生要一氏(株式会社リクルートホールディングス MediaTechnologyLab.)

社会の課題に対し、新しい手法やテクノロジーによる解決を進めていく「社会実装」は一朝一夕には進みません。シビックテックに取り組む様々なプレイヤーは、活動の中でまさに日々それを体感しておられるでしょう。
このセッションでは、総務大臣補佐官としてさまざまな地域の地域活性化や、IoT・AI等の最新テクノロジーによる社会実装に携わる太田直樹氏と、株式会社リクルートホールディングスにて、地域課題解決型の新規事業創出に挑戦をする麻生要一氏に登壇を頂き、テクノロジーを社会実装していく際の課題や心構えなどを共有頂きました。

前編となる本稿では太田氏の講演内容について紹介し、後編では、麻生氏の講演と対談の要約についてお届けしたいと思います。



着眼大局


冒頭でもお伝えした「着眼大局 着手小局」という言葉を中心に、セッションのテーマでもあった「テクノロジーは課題を解決できるのか」という問いについてお話いただきました。
以下は大局(これからの社会の枠組み・あり方)を知るという視点でお話いただいた事例となります。

サイバーフィジカルシステムという考え方
サイバーフィジカルシステムとは、簡単に言うと、物・人・自然にカメラ・センサーをつけてデータをとって解析し、それを世の中にフィードバックして、社会を改善していく考え方や原理をいいます。
例えば
・どういうタイミングで漁に出ると魚が取れて水産資源が保てるのか
・どうやって生活をしていると健康でいられて医療費がおさえられるのか
といったものもその考え方の一つ。
太田氏は、「10年、15年かけ、農業、漁業、交通、医療等、あらゆる対象がデジタル化され、分析され、フィードバックされていく世の中になっていく」と語りました。

また、総務省による「IoT総合戦略の基本的枠組み」についても紹介されました。
26

写真:IoT戦略基本的枠組み(当日の太田氏資料より)
※出典:総務省 情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT政策委員会(第8回) 2017.1.24


そして、これからの社会の枠組み・あり方がどのように変わっていくのかの大局の提示として、バルセロナと会津若松の事例をお話いただきました。

バルセロナは、街の街灯等に1.5万ぐらいセンサーがついており、人や車の動きや、環境に関するデータを集め、オープンデータとして公開しているとのこと。市民、行政、企業、NPOが参加し、そのデータを解析しどのような街にするかの議論等に活用されているそうです。
 ※参考資料: バルセロナのスマートシティ プロジェクト事例(P19,21)

会津若松市は、データを集めてオープンデータにし、大学・企業が活用し、教育や医療用に分析をして最適化するということを始めているとのこと。マルチセクター、つまり行政、企業、NPO等が集まり、社会を動かしていく仕組みが大きく動き出しているそうです。

36

写真:「会津若松市 まち・ひと・しごと創生総合戦略」(当日の太田氏資料より)


着手小局


「一方でミクロに視点を移すと」という前置きで今度は現場の話を展開されます。
テクノロジーはすごいことができる、すごいことができるのだが、社会実装していき、物事をかえていくにはアプローチが重要(太田氏)

ある政令指定都市におけるデジタルサイネージの実証実験では、画像認識技術を利用して、サイネージを見た人数・年齢・性別のデータを取得しています。しかし、「何に使われるのか不安」という声で、カメラが作動する3メートルのところに線が引かれ、その両端に「中に入ると撮影される」と書かれた看板が設置されたそうです。
これでは、事実上「立ち入り禁止」で、サイネージの利用は全くされません。

この実証実験では、撮影をしていますが、匿名化されているので法的には全く問題はありません。しかし、このように日本ではテクノロジーの活用ができない事例が多いとのことです。

一方で、通常であれば、「なんで(子どもの)データをとっているの...?」となりがちな子ども見守りサービスについて神戸市の事例を紹介されました。
神戸市における「子ども見守りデータの利活用」は、NPO、PTAの会長、大学の先生等がはいって市民を巻き込みながら、「データをどのようにとって、どのように活用していこう」と、考えながら実施されています。仕組みとしても、インフラにセンサーをつけるのではなく、市民のスマホにアプリをいれることで効率的に実施していると同時に、データの取得に市民が参加をしている姿があるとのこと。
(テクノロジーを)社会実装していく時は、オープンで、いろんな人が参加するチームが鍵になってくる。そのメンバーはいわゆる影響力のある人ではなく、見かけも含めて普通の人。そういう人がいろんな人を巻き込みながら、丁寧に対話を進めていく中で出てくるそこにこそ可能性がある。(太田氏)

また、こういう事例については、国のすることはあまりなく、都市や街の単位でしなやかに動いている活動の方が可能性があり、まさに、「着眼大局 着手小局」の姿勢が必要なのだ。
と講演を締めくくられました。



後編では麻生氏の講演内容と対談の内容を元に、テクノロジー許容度の地域差等について触れていきたいと思います。→後編へ

講演のつぶやきまとめはこちらから。臨場感あるので別の角度から講演を知ることができます。
togetter(つぶやきまとめ)



グラフィックレコーディング


こちらの講演のグラレコ(by 松本花澄さん)です。
DSC_0038


講演動画

記事をよんで興味を持った方は、是非こちらの動画をご覧になり、生の声をお聞きください。






著者プロフィール:伴野智樹(@tomokibanno
12308461_981259051931429_6535884007255839882_n
CivicWave運営メンバーの一人。
MashupAwards事務局/CIVICTECHFORUM事務局
ミッキーマウスの声真似が得意です。