お世話になったものには貢献したくなる
今回のパネルディスカッションででた、この言葉がエンジニア出身の私には強く響きました。
「5374(ゴミナシ)って便利だよね」と思った人が参加してくれたり、「のとノットアローンを使ってるよ!」という人が運営メンバーになったりしてくれている現状がまさしくシビックテックコミュニティの発展の姿なのかなと感じます。
15年かかって発展したオープンソースコミュニティと、それよりもっと古いフリーソフトの概念を考えると、シビックテックコミュニティはまだまだ赤子。
焦らずしっかりと社会に貢献していくことが大事そうです。
シビックテックコミュニティはまさに今から。これから価値を世の中に認知させていくとき!
そう感じさせられたセッションでした。
▶セッションの背景
「CIVIC TECH FORUM 2017」の市民コミュニティセクターのメインステージでのセッションは「社会インフラとなったオープンソースコミュニティに学ぶコミュニティ運営のコツ 」というテーマ。
筆者である私(福島)がモデレータを務め、以下2名とパネルディスカッションさせていただきました。
・法林浩之氏(日本UNIXユーザ会 幹事)
・湯村翼氏(国立研究開発法人情報通信研究機構 研究員)
モデレータ:福島健一郎(一般社団法人コード・フォー・カナザワ 代表理事)
オープンソースソフトウェア(以下、OSS)のコミュニティとシビックテックコミュニティは、「テクノロジーを利用していること」「オープン」「市民参画」など、重なる点が多くあります。
そこで、先輩格となるOSSコミュニティから「シビックテックコミュニティが学べることが多いのではないか、そこから現在シビックテックコミュニティが抱える幾つかの課題を解決する糸口が見えるのではないか?」というのが本セッションの狙いです。
また、現在のOSSコミュニティが社会のインフラを支えるまでのソフトウェアを創りあげているように、シビックテックコミュニティも将来、社会を支えることができるようなサービスを構築できるような未来を描けないか。という点も議論したいと考え、OSSコミュニティやエンジニアコミュニティ運営に詳しいお二人に登壇をお願いしました。
▶オープンソースコミュニティってなに?
まず、最初にOSSコミュニティに古くから関わっている法林氏にOSSコミュニティとは何かという話をして頂きました。
オープンソースとはプログラム自身であるソースコードがオープンに公開されているもの。
OSSコミュニティとはそのオープンソースに何らかの形で関わっている人たちの集まりのことを指しています。但し、関わり方は様々で、プログラムを作る人だけでなく、作られたプログラムをどう活用していけばいいかを考える人や広める人、作る人たちをサポートする人など、多様なメンバーがいます。
そして、このオープンソースという概念は90年代の終わり頃に誕生し、日本でOSSコミュニティが誕生したのもその頃だということでした。
▶シビックテックコミュニティってなに?
次に比較対象となるシビックテックコミュニティについて、モデレータの私(福島)から一般社団法人コード・フォー・カナザワをモデルに説明させてもらいました。
シビックテックとは市民参画型でICTを用いた地域課題解決を行うこと。そして、それに関わるメンバーが集まっているのがシビックテックコミュニティです。地域や社会の課題を解決するという特性上、メンバーは多様であり、プログラマなどのエンジニアだけではなく、主婦や学生、サラリーマン、個人事業主、議員、行政職員など幅広い方々が参加をしています。それは、メンバーが偏ると考え方も偏るからで、そういった意味からもエンジニアコミュニティではありません。
また、5374(ゴミナシ).jpをはじめとした幾つかのアプリは「自分たちが必要だから作った」という形のものが多く、「お金がないと作らない」、「儲からないと作らない」というモチベーションとは別の動機で皆が活動しています。
▶シビックテックコミュニティにエンジニアを呼び込むためには
そして、ディスカッションへと移ります。最初のディスカッションのテーマはこちら。
「シビックテックコミュニティにエンジニアを呼び込むためには」
シビックテックコミュニティは多様なメンバーが参加していることが理想ですが、「テック」がついているコミュニティの名称の通り、エンジニアはやっぱり必要です。
しかし、一般社団法人コード・フォー・カナザワでもエンジニアの比率はおよそ2割程度。他の地域のシビックテックコミュニティによってはエンジニアがほとんどいないというところもあります。
エンジニアが参加して来ないのはなぜだろう?また、エンジニアのコミュニティとも言えるOSSコミュニティにはエンジニアがたくさん集まっているが、集まってくる動機ってなんだろう?シビックテックコミュニティには彼らに魅力がないのだろうか?といった私の質問から始まりました。
この問いかけに対し、湯村氏からは、
「おうちハック同好会というコミュニティをやっているが、最初はおうちハックというコミュニティの存在は知らなくても、家をハックしたいという気持ちがある人をネットで見つけては、アドベントカレンダーを書いてみないか?イベントでLTしないか?と少しずつ声をかけている」
と、コミュニティの誘い方のコメントがありました。
法林氏からは、
「OSSコミュニティは個人の問題を解決するというところから始まる。その後、他の人たちでもそのソフトウェアにお世話になっているという想いが強くなると貢献したいと思ってくる。また、そのソフトウェアを使って何かサービスを売るというようなお金が動機になる場合もある」
と、OSSコミュニティの特徴が語られました。
そして、湯村氏から、OSSコミュニティに参加する一人として、リアルなコメントが飛び出しました。
オープンソースソフトウェアは確かに無料で使えるけど、とても便利だったり、あれは凄いなぁと思うと、貢献したくなってくる。こんなにすごいものを作ってくれたのにお金を振り込むこともできないという”振り込めない詐欺”という言葉もあるが、そういう気持ちは確かにある。(湯村氏)
”お世話になったものに貢献したい”という想いがOSSコミュニティにエンジニアが入る一つの動機になっているのなら、シビックテックにはまだお世話になっていると感じている人が少ないのかもしれない。
つまり、これからシビックテックにお世話になる人を増やしていくことが、今回の問い「シビックテックコミュニティにエンジニアを呼び込むためには」の一つの解になると結論付けられました。
▶活動資金やメンバーの流動性や多様性をどう確保するのか
「メンバーが増えない。多様性が生まれない。経費ぐらいは資金を確保したい。などの悩みがシビックテックコミュニティには多いけど、OSSコミュニティはどうしているのか?」
というテーマに話は移りました。
それに対し、スポンサーのいないコミュニティとスポンサーをつけたコミュニティの両方の運営経験がある湯村氏から、コミュニティ運営において、当たり前だけれど、忘れてしまいそうな重要なコメントが。
「活動資金は多ければいいというわけではない。やりたいことに対して必要十分なお金を集めるスキームを考えるのが重要」
そして、法林氏からは「支援してくれる企業の存在は大事」という話が出ました。
例えば、日本でも有名なRubyの開発者であるまつもとさんは余暇でRubyを開発していたが、今では企業内で仕事としてRubyを開発しているという実績があり、こういう企業の支援が大事だとのこと。
さらに、2000年ぐらいの頃は企業がOSSコミュニティの支援はまったくなかったものの、OSSの価値を企業が理解してくれるようになり、支援が増えてきた経緯があるとのことです。
そういったことからも、法林氏は
「シビックテックも価値がしっかり伝わるようになれば、企業の支援も取り付けることができるのではないか」
と語り、湯村氏からは、
「ソフトウェアエンジニアリングやコンピュータサイエンスはオープンソースの恩恵を多大に受けていて、企業自身が恩恵を受けているという意識があるのではないか。米国のIT企業などは今までの恩恵にタダ乗りするのは良くないという考え、コミュニティ支援などを行っているケースも目立つ」
ということでした。
支援はお金だけではなく、人を出すなど色々な支援の仕方があります。シビックテックコミュニティが社会インフラへと発展するには、企業のサポートも重要な要素だと、改めて気付かされました。
また、法林氏からはメンバーの多様性や流動性という面から、
「うまくいっているコミュニティを眺めてみると、ユーザ数そのものが多いので入ってくる人も自然に多く、それで流動性が保たれるというケースと意識的に若い人に主導権を渡していくことで世代を変えていくケースがある。」と紹介し、
「意識的に色々な団体と交流することも大事。」と付け加えられました。
さらに、法林氏はLinux系のコミュニティを例に、
「コミュニティというのはそれが当たり前になってしまうと必要性がなくなっていき、コミュニティが衰退していく。ここまでに来るのに15年かかっているが、シビックテックコミュニティはできてまだ3年だとすると、まだまだという感じもある。」
と語り、最後に勇気が出るコメントもいただきました。
どんなコミュニティも立ち上げの3年ぐらいは立ち上げそのものが好きという人たちというのが関わったりするが、これから入ってくる人たちは本当にシビックテックが好きだという人だろうから大事にしたらいい。(法林氏)
▶誰でも参加でき、場所を問わないことが大事
OSSコミュニティはどうやって成果を出し続けていけたのかという問いには、
・誰でも参加できることによってメンバーの流動性を高めること
・自由な競争を確保することで品質をあげていくこと
・貢献が可視化されることでモチベーションアップにつながること
ということがお二人から語られました。
最後にお二人からシビックテックに対するエールを一言ずつ語ってもらっています。
湯村氏
シビックテックの話を普段する機会というのはないかもしれないけど、ちょっとした雑談のときにでも今日あったこのフォーラムの話をするだけでもシビックテックが拡がっていくのではないかと思う。ぜひ月曜日に同僚に会ったら、今日の会の話をしたらいい
法林氏
オープンソースの発展はインターネットの存在と最近ではSNSの存在で、場所を問わずに貢献できるということが非常に大きいのではないかと考えている。シビックテックも地域にこだわらず、面白そうだと思えばどの地域でも参加したらいい
60分という短い時間でしたが、OSSコミュニティの運営のノウハウをシビックテックコミュニティに展開できないかというセッションは終わりました。
15年後もシビックテックコミュニティが生き残り、多くの成果を社会に残していることを期待したいと思います。
講演のつぶやきまとめはこちらから。臨場感あるので別の角度から講演を知ることができます。
→togetter(つぶやきまとめ)
▶グラフィックレコーディング
こちらの講演のグラレコ(by おおすみさきさん)です。
▶講演動画
ご興味をもってくださった方は、記事にしきれなかった部分もありますので、是非講演もご覧ください。
著者プロフィール:福島健一郎(@kenchif)
CivicWave運営メンバーの一人。
一般社団法人コード・フォー・カナザワ(Code for Kanazawa) 代表理事、アイパブリッシング株式会社 代表取締役
Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは100都市以上に展開。