
きっかけは先生!センセイ!せんせい!
学生がシビックテックと関わるきっかけは、先生というのは予想はしていましたが、様々な学生の生の意見から、その影響の大きさを改めて感じさせられたセッションとなりました。
そして、シビックテック活動は、生きていく上で必要な得体の知らない何か(?)を学べる場でもありそうです。
また、シビックテックの基本は「ジブンゴト」だと思っているので、新井氏に紹介いただいた「チャンス教育」は、主体性をもって活動するとてもいい方針だと感じました。
成功体験を味わうことで、人は情熱をもってものごとに取り組むことができるようになる
▶セッションの背景
「CIVIC TECH FORUM 2017」の市民コミュニティセクターのインタラクティブステージでのセッションの一つは「学生とシビックテック」というテーマ。
筆者である私(鈴木)がモデレータを務め、多くの学生をたくさんのコンテストに送り込んでいる奈良先端科学技術大学院大学 准教授の新井イスマイル氏をゲストにお話を伺いつつ、会場の学生から生の声も拾いながら進行しました。
・ゲスト:新井イスマイル氏(奈良先端科学技術大学院大学 総合情報基盤センター 准教授)
モデレータ:鈴木まなみ(CivicWave主宰者)
MashupAwardsというアプリコンテストの事務局をし、たくさんの学生エンジニアと接していますが、疑問に感じていることがあります。シビックテック的作品を作る学生は多いのに、シビックテック活動には興味を示さない人が多いということ。何が弊害になっているんでしょうか?
そして、シビックテック活動に参加している学生は何をきっかけに、何をモチベーションに参加しているんでしょうか?それを聞くことで、より多くの学生にシビックテックに興味をもってもらう糸口がみえないか?そんな疑問をはらすべく、このセッションを企画しました。
まずは、Code for KOSENを学生に仕掛け、多くの学生をシビックテック活動に送り込んでいる新井氏に、先生としての考えを聞きながら、今回のイベントに参加してくれている学生に質問していく形でセッションを進行していきました。
▶チャンス教育〜成功体験を味わうことができるようにチャンス(機会)を与える教育方法〜
まずは、新井氏の講演から。
新井氏の明石高専の教え子はシビックテック関連のコンテストで、多く受賞をしています。しかし新井氏はシビックテックが専門なわけではありません。
学生の興味は多様であるため、いろんなものを学生に紹介していて、たまたまシビックテック系のコンテストの受賞が多いというだけ。
新井先生は「チャンス教育」といわれる教育方法の実践をしているそうです。
チャンス教育とは、どんな人でもその人なりの成功体験を味わうことができるように、チャンス(機会)を与える教育方法のこと。
成功体験を味わうことで、人が情熱をもってものごとに取り組むことができるようになります。
チャンスを作るため、自分自身が多くの人とつながり、もらったイベントを案内したり、チラシを研究室のドアや掲示板に貼ったり、講義中にも紹介し、成果がでたらできるだけ発信をしているそうです。
▶高専生の身近な問題をITとデザインで解決させる「Code for KOSEN」
シビックテックでいわれる「地域課題解決」といわれても学生にはいまいちピンときません。意識高い系といわれたり...。学生は、自分の欲求もよくわからない状態なのに、他人の欲求を理解して活動するのは、さらにハードルが高いことです。
そこで、新井氏は、高専生活における「こうしたい!」を高専生自らがITとデザインの力で表現していくための「Code for KOSEN」を学生達に仕掛けます。つまり、ITで課題解決をしていくきっかけを、地域課題トリガーではなく、ジブンゴトにおきかえてつくったのです。そして、勉強会をおこなったり、学校の授業のデータなどをオープンデータ化したりしました。その結果、学生達は、ゲーム仕立てのスケジュール管理アプリ「単位コレクション」、自分達の時間割を見やすくする画面、学祭のアプリを作り始めたそうです。
そこで作られたアプリの一つ「actif - 高専祭をてのひらに」は、MashupAwards9にも応募され、テーマ賞(U-23賞)を見事受賞しました。
他にも、シビックテックらしい作品例をあげると、明るい夜道を案内する安心・安全な歩行者ナビゲーションシステム「Night Street Advisor」はオープンデータユースケースコンテストで最優秀賞を獲得しています。

新井氏はシビックテックが専門というわけではないですが、シビックテックに関わるエンジニアの一番大切なところを学生に伝えている気がしました。それは「ジブンゴト」です。そして、自分の技術が活きる成功体験です。自分の技術が活きることに喜びを覚えれば、それはもうジブンゴトだと私は思います。自分の技術で地域の課題を解決していくことが、他人事ではなくジブンゴトに変わります。
▶対外活動を勧めるのは、今求められている能力を学べるから
続いて、学生に対外活動をすすめている理由について語られました。
いま教育で求められているものは変わってきており、基礎となる知識や技能だけでなく、主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度や、課題発見から解決における思考力・判断力・表現力なども求められている時代です。
これらは、社会人が日々やっているプロジェクトそのものであり、それを学ぶことができるため、対外活動を学生にすすめているそうです。
そして、シビックテックは学校教育改革をまたなくても、これらを学べるとてもいい場だと思っているとのことです。


▶インタラクティブセッション
後半は、参加している学生などに質問しながら、シビックテック活動に参加したきっかけや動機などを聞いていきます。

Q:シビックテック活動に参加することになったきっかけは?
「学校の授業で行ったPBL(Project Based Learning/Problem Based Learning)がきっかけ。LOD(Linked Open Data)を使って開発という授業をおこなったことです。」
と回答したのは、はこだて未来大学生(&Code for Hakodate)の工藤さん。
また、Code for Japanのインターンをやっている池田さんは
「角度は違うけれど、先生の影響です。僕は政治学科なのですが、これからの行政において市民参加がどのように関わっていくのか?行政視点で関心をもちました」とのこと。
やはり多くの学生は、学校の授業や先生の影響が大きいようです。
一方で名古屋工業大学(&Code for Nagoya)の渡辺さんは
「大学で学んでいることが、社会に出た後何に活きるのか?を知りたいと思い、父を介してCode for Nagoyaに参加しました。そこで白松先生に出会い、今は白松研究室に所属しています。」


きっかけとしての先生の存在は大きいですが、シビックテック活動に継続的に関わる際にも先生という存在は大きいようです。
当日参加してくれていた、NAISTの河中さんもブログにて関わったきっかけを書いてくれていますので、そちらも是非ご覧ください。
Q:シビックテックアプリは作るけど、コミュニティには参加しないこの壁はなんだろう?
「時間スパンの感覚が違うことは、活動が続かない要因の一つではないか」
と回答したのは数々のシビックテックアプリを生み出しているNAISTの松田さん。
学生は、学生の間の短い期間で何かをやりたいと思って動いています。そして、シビックテックはその選択肢の一つでしかありません。シビックテック活動を行政の方と進めていく中で「これは何を待っている時間なんだろう?」と思う不思議な時間があるとのこと。
学生は、賞を受賞して、どんどん次に行きたいとおもっているけれど、そんな時に理論では語れない何かがあると、少しめんどくさいと思ってしまうこともあるそうです。
そして「新井先生のいう "折衝" の部分が苦手だからかな...。」っと。
また、「学生の時だけその地域にいる学生も多いため、そこまで地域に愛着があるわけではない。」という理由もあがりました。
はこだて未来大学(&Code for Hakodate)の兵藤さんからは、
「テックに興味がある学生は多いけれど、シビックテックだと草の根的活動もしなければいけない。僕は少し変わっていて、そこ(草の根活動)に面白みを感じたけれど、僕みたいな学生は少ないかな...。ただ、函館には教育大もあり、街づくり体験の学校などもあるので、そういった大学とチームを組んでいけたらいいと感じている」という意見もありました。


シビックテックなどのイベントに関わっている学生は工学系の学生が多いように思います。アプリ開発コンテストなどがあるからでしょうか。
自分とは違う得意分野をもっている同じ年代の人がいることも重要ですよね。
Q:シビックテックになぜ参加してますか?
名古屋工業大学(&Code for Nagoya)の渡辺さんからは、こんな意見が。
「シビックテック活動で技術を学ぶのもそうですが、技術だけでは世の中にだせないということも学びました。また、服装や髪型の指導が入ったり、これから生きていく上で大事なものをかなり広い視点で学べていると思います。新井先生のいっていた3要素をCode for Nagoyaで学べると思い、継続的に参加しています」

Code for Nagoyaのメンバーが渡辺さんを面白そうにいじっている姿が目に浮かびますw。
今回のセッションを通しての結論は、学生がシビックテックと関わるきっかけにおいて、大学の先生の影響は偉大ということです。
ただ、「継続して参加していく」という部分に関して、特に大学を卒業してからも継続して関わるためには、地域のシビックテック団体の存在も大きく影響しそうです。
また、シビックテック活動は、生きていく上で必要な得体の知らない何か(?)を学べる場でもありそうです。
講演のつぶやきまとめはこちらから。臨場感あるので別の角度から講演を知ることができます。
→togetter(学生とシビックテック)
また、新井氏の発表資料はこちらからご覧いただけます。
学生とシビックテック from Ismail Arai
▶グラフィックレコーディング
こちらの講演のグラレコ(by 和波里翠さん)です。

▶講演動画
ご興味をもってくださった方は、記事にしきれなかった部分もありますので、是非講演もご覧ください。
━━蛇足━━━━━━
渡辺さんの最後の発言から、私はCode for Nagoyaの和気あいあいとした雰囲気を感じました。学びが多いことはもちろんですが、かまってくれる人がいることというか、居心地のいい雰囲気って、活動を継続的に参加していく上でとても大切だと思うんです。
またシビックテックに関わっている学生のほとんどが工学系の学生。でも、文系の学生の方が社会課題に関しての関心は強いイメージを私は持っています。そういった違う分野が得意な同世代がコミュニティにいることも、学生がシビックテックコミュニティに参加するモチベーションになりそうな気がしました。
文系女子大生が社会課題解決といってすぐに思い浮かべるのはハナラボ。CTF2015にも代表の角さんに登壇いただいたので、今度相談にいってみよっと。
著者プロフィール:鈴木まなみ(@rin2tree)

CivicWave運営メンバーの一人。
2歩先の未来をよむブログメディア「TheWave」の湯川塾の事務局を務め、テクノロジーの最新動向をウォッチしながら、コミュニティ運営や執筆活動中。
また、MashupAwards8〜11の事務局を務め、内外のコミュニケーション全般を担当。