
シビックテックはテクノロジーよりも運用が肝
リクルートが、2015年度1年間やってきたシビックテックの取り組みを紹介し、どんなことを考えながら地域課題に取り組んでいるのかが語られたCIVICTECHFORUM2016のローカルセミナーの1つ。
「地域課題に必要とされるテクノロジーのレベルは低くてもいい。どれだけシンプルに設計できるか?が肝になってくる。テクノロジーよりも運用が肝です。(麻生氏)」
最新のテクノロジーで課題が解決できたとしても、課題を持っている人達が利用できなければ意味がありません。シビックテックにおけるテクノロジーの割合やレベルは高くなくていい。手段であって目的ではない、そんな当たり前のことを改めて気付かせてくれる言葉だったかもしれません。
「シビックテックは、主語をいかに地域にもってこれるのか?がとても重要です。そして、地域は変化を好みません。そうはいっても先進的な市民団体もいるので、小さな事例を創って広げていくしかないと思っています。変化を嫌いな人でも隣街で導入されると変化する可能性はあります。(麻生氏)」
株式会社リクルートホールディングスは、MashupAwardsというアプリ開発コンテストにおいて、シビックテック部門賞を設立し、エンジニアの方々にシビックテックとの接点を生み出す仕掛けや、そこで生まれた作品を継続的に開発できるようにTECH LAB PAAKという場を提供するなど、シビックテックエンジニアや団体への支援を多くしています。と同時に、自分たちでもシビックテックサービスの多くリリースしています。
シビックテックは、それぞれがそれぞれの役割を持って参加していくことはとても重要で、大企業でなければできないシビックテックもあると思っています。基調講演で木下氏がお話したような、成功したところにのっかる子泣き爺ではなく、変化の早いこの時代、より良い社会を「ともに」作り出していく大企業としての関わり方の一例を教えてくれました。
▶セッションの背景
「CIVICTECHFORUM2016」のローカルセッションの一つである「ローカルと大企業のシビックテック リクルートの事例」は、メインパートナーでもあるリクルートのシビックテックとの関わり方についてです。今回、株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab.の室長である麻生要一氏に登壇を依頼した意図を、セッションチェアの伴野氏は以下のように語っていました。
「様々なプレイヤーが社会課題・地域課題の現場に参加をし、それぞれの役割りを持って、それらを解決していいく事が必要です。みんなで解決していく事で、地域の経済エコシステムもコミュニティシステムも回っていく。このセッションは、ローカル課題に対する大企業の関わり合い方を示す事例として、ある街ではじまった、リクルートによる社会課題解決型新事業の実証実験などの事例を通し、シビックテックを通じた企業とローカルの新しい関わり合い方について、あらゆる参加者の方に聞いていただきたい。(伴野氏)」
▶リクルートのアセットやナレッジを活かしてサポートしている事例
「リクルートは人生の大切な瞬間の選択のメディア事業会社ではあるけれど、考えていることはこの国の社会課題をビジネスを通して解決することです(麻生氏)。」
リクルートは社会課題を解決する会社ということを伝えつつも、現在の社会課題における地域課題は重要であり、昨今は、自分たちがやるだけでなく、そういった取り組みをしている人たちを、リクルートのアセットやナレッジをいかしてサポートする取り組みもはじめているとのこと。CIVICTECHFORUMもその一つであり、それ以外の取り組みとして以下の2つをご紹介いただきました。
●MashupAwards:日本最大級のアプリ開発コンテスト
シビックテック部門賞を設立し今年で3年目。エンジニアにシビックテックと触れてもらう機会をつくりながら、シビックテックをもりあげるなど
●TECH LAB PAAK:イノベーションを生み出すコワーキングスペース
リクルート以外の人たちを応援する「場」。この世界をもっとよくするイノベーションを生み出す場として、リクルートが応援したいと思った団体などに無償で場所を貸し出し。
応援したいとおもったサービス例
・排泄検知サービス「Lifilm」を運営している「aba」
・子どもの成長の映像を自動編集する「filme」
・病院にいる子どもたちに魔法をつかえるようにしたいという「Digital Hospital Art」など。
そして、午前のセッションで登壇された、AEDによる救命サービスを運営している「Coaido」は、MashupAwads9の東京ハッカソンの最優秀賞作品であると同時に、TechLabPaakの1期生でもあるそうです。

▶リクルートがしているシビックテック事例
次に、リクルート自身が行なっているシビックテック活動についても事例をご紹介いただきました。
●Smart City Innovation Program:リクルート、柏市、三井不動産との街の未来とつくる実証実験
会社としてやるかどうかきめておらず、アイデアの種レベルから街に持って行き、市民の方に意見をきいてサービスをブラッシュアップしていったという、大企業としては画期的なプログラム。
●コクリプロジェクト:日本と地域の未来のために垣根を超えた共創を実現、推進する活動
地域イノベータサミットを実施し、横に人を繋ぎ、活動を支援したり応援したりする。ソフトバンクの社員とともに、塩尻市に政策提言などもしている。
●iction! :子育てしながら働きやすい世界をつくるという取り組み
その中で以下のようなサービスも生まれてきたそうです。
・CoPaNa:一時保育のためのプラットフォーム
・Kidsly:保育士さんの業務支援ツール
・casial:お掃除に特化した家事支援サービス
・カムバ:妊娠〜出産〜職場復帰までの復職に特化した応援アプリ
●あいあい自動車:地域住民の皆様で共同所有の車を使って行う送迎サービス
「運転できずに移動に困っている高齢者」と「車の維持費に困っている運転者」の双方の問題を解決することを目指したサービスで、三重県菰野町でリリース。持続可能で低コストな地域間での移動の仕組みを実現。事業主体は菰野町の社会福祉協議会で、リクルートはシステムベンダーとして参加。

▶シビックテックはテクノロジーよりも運用が肝
最後に、シビックテックだけでなく、様々な事業をみている麻生氏の考える「シビックテックの取り組みへの考え方」について熱く語り、セミナーを締められました。
「地域課題に必要とされるテクノロジーのレベルは低くてもいい。どれだけシンプルに設計できるか?が肝になってきます。テクノロジーよりも運用が肝です。使いやすくプロダクトを改善するよりも、どうやって教えるのかをフロー化することのほうが大切です。
そして、シビックテックは主語をいかに地域にもってこれるのか?がとても重要です。地域は変化を好みません。ただ、そうはいっても先進的な市民団体もいるので、小さな事例を創って広げていくしかないと思っています。変化を嫌いな人でも隣街で導入されると変化する可能性はあります。(麻生氏)」
今回のCIVICTECHFORUMの最後に、イベント全体をとおして「テクノロジー部分が弱いのではないか?」といった参加者の方の発言もありましたが、シビックテックにおいてテクノロジーを強調することは、本末転倒だということを、このセミナーでも伝えられていた気がします。
講演のスライドはこちらからご覧いただけます。
▶グラフィックレコーディング
講演のグラレコも参考ください。似顔絵がそっくりですw。



▶講演動画
講演の動画もこちらからご覧いただけます。