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シビックテックに求めるものは、より少ない財で、より大きな効用を創りだす高生産性社会の実現

「みなさまに注意してほしいことがあります。少しずつ手弁当で積み上げてやってきたのに、一度国から大きな予算がついてしまうと、お金がないと回らなくなってしまった経験があります。人間のモチベーションは簡単ではありません。子泣き爺のような国や自治体の誘惑には気をつけて!!(木下氏)」

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスの木下氏の話は、冒頭からひきつけます。

「補助金依存のビジネスは麻薬であり悪循環です。新しく作るところまではお金がでますが、維持費はでません。そのため、やればやるほど地方は衰退していきます。経済循環の原則を意識して、活性化に取り組むことが重要です(木下氏)。」

と、まちの活性化には、行政に依存しない「民の稼ぐ力」を作るのか?が重要と訴え、シビックテックに求められるものとしては、

「より少ない財で大きな効用を作り出す、高生産性社会の実現が重要で、民間の知恵とテクノロジーによって、オルタナティブイノベーションを作り出すことを期待しています。(木下氏)」

と、過去の延長線ではなく、代替するサービスの構築でのテクノロジーの活用が求められていることを強調されていました。


セッションの背景


CIVICTECHFORUM2016」の基調講演は「稼ぐまちが地方を変える」というタイトルで、内閣官房地域活性化伝道師でもある木下さんのお話です。今回木下さんに登壇を依頼した意図を、セッションチェアの伴野氏は以下のように語っていました。

「まだまだよちよち歩きのシビックテックが、これからも健やかに成長していくためにも、シビックテックに関連する活動に取り組まれる方全てに、補助金に頼らないエコシステムを構築することにより、ローカルの課題に取り組む木下さんのお話をきいていただき、シビックテックに今向き合うべき姿勢を知ってもらいたいと思いました。(伴野氏)」


お金が変えた歯車


まずはじめに、国からついた大きな予算によって、地道に積み上げてきた活動がダメになってしまった事例を、ご自身の失敗体験を元にお話されました。

「民間主導、行政参加の街づくりを、手弁当ながらも地道に作り上げ、様々なところで表彰されました。素晴らしい取組なので、是非横展開をしてほしい。ということで、国から委託事業として大きな予算をいただいた経験があります。しかし結果どうなったのか?といいますと、予算がないと運用できない体制になってしまいました。
それまでは、仲間で分担し実施していたのに、です。人間のモチベーションはそこまで簡単ではありません。一度お金があることが前提のやり方になってしまうと、お金のないやり方に戻ることはできません。
助成金、補助金、横展開、受賞は一見良さそうに見えますが、それは崖っぷちに立たされているのだと認識する必要があります。それによって滅んでいくプロジェクトはとても多いです。
国や行政は、動きが形になり、うまくいっているとのっかってくる子泣き爺のようなものです。警戒してください。(木下氏)」


そして、補助金は麻薬であり、地方が再生されるどころか、衰退が加速していく状況にあることも語られました。
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図:木下さんのnote「補助金依存の悪循環」より


アメリカでの街づくりをお手伝いし、気付かされたこと


続いて、アメリカでの街づくりに関わった際にうけた衝撃について話され、困ったら自治体に頼るという日本の精神構造を変える必要があり、日本は住民による自己解決が少なすぎることを訴えました。

どんなサービスと関わり、どんな衝撃をうけたのでしょうか。

(1)NEWYORKのタイムズスクエアなど:地元の地区管理組合で、軍や警察などの経験をもつ警備員を一定雇用し、各ビル内の警備体制の一部を担いながらも市街地全体の治安維持サービスも展開。地元警察との共同無線の運用も行い、警察行政で対応すべきことと、民間警備員が対応することを効果的に組み合わせて展開しているという事例。
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「従来だったら、安全安心パトロールといって、人海戦術的に見まわるとしそうなところを、科学的に、より効率的にやれることを考えなければいけないと衝撃をうけました(木下氏)」

(2)breakingground:ホームレスのサポーティヴハウスを効率的に運営。超低コストでホームレスの住まい提供。企業と一緒に社会復帰プログラムを実現し、人材派遣することで稼ぎ、ビジネスモデルを構築しながら運用。また、ホームレスが路上から減少することによる街への環境改善にも貢献。
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「このサービスを起業した女性は元行政職員。その女性と話をして衝撃をうけた言葉が「行政でやっている限り1ドルで救える人の数が少ない」というもの。行政はパフォーマンスを考えないから、税金を使って高コストな施策はできる。だが、このサービスは高生産を考えた設計がされています。公共サービス分野でも、1ドルで多くの人を救えるシステムを考えなければいけない!ということに気付かせてもらいました(木下氏)」

 (3)KaBooM!:ランドスケープデザインをオンラインでサポートしている会社。STEPbySTEPでマニュアルが組まれており、PDFでレシピをダウンロードできる。過去の経験者の協力者なども求めることができるなど、人のサポートもしている。民間でできるようにテクノロジーでサポートしている。
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「ある小学校の校庭を作るプロジェクトに参加しました。アメリカでは学校を作る際に特別区を作り増税します。そして、新しいサービスを受ける受益者が明確になるため、自分事になります。限られた予算で学校を作る際に、校舎を手創りにはできないが、校庭ぐらいは自分たちで作れるということで、KaBooM!が利用されました。その開校式では多くの市民が映画のような盛り上がりを見せていたんです。その盛り上がりをみて、「求めるのではなく自分たちで自己解決するという考え方が日本では枯渇しているんだな」と気付かされました。予算が配布されたらありがたがる日本の精神構造を変えなければ!と感じた出来事でした。(木下氏)」


重要な事はより少ない財でより大きな効用を作り出すこと


そして、CIVICTECH活動をして行くうえで、忘れてはいけないことは、余剰を残して再投資するという、経済活動の考えをしっかりと持つことだと強調しました。

「困ったら自治体に頼る。という精神構造からの離脱はとても重要です。技術を持った人が自分たちで作るCIVICTECHという取り組みは、まさにそういった思考から脱却する動きであり、今ある課題から方策をいかに創っていくのかが大きなテーマだとおもっています。
ただ、その際にお金に換算することと、マネジメントをちゃんと考えていくことが大切であり、「絞る(経費削減|自前主義)」「回す(地域内取引の拡大)」「増やす(商圏内需要|地域外通貨獲得)」のどの施策なのかを意識し、このサイクルの中で余剰を残し再投資するという、経済循環の原則を考えて行動していただきたい。たくさん人が来ました。でも出て行くお金のほうが多いという取り組みはよくありますが、そうならないようにしてください。(木下氏)」




そして、街の活性化において、高生産性社会の実現が重要で、その手段としてのテクノロジー活用に期待している旨を語られました。

「街も一つの会社と同じで、資金を調達して、投資をして、税収で回収するというサイクルです。そして、税収は民間の利益に依存します。民間が稼いで公共部門を支えてやっていくことができないと、すべて紐付きのお金で考えていかなければいけなくなります。そのため、街の活性化において重要なことの一つは、いかに行政に依存しない民の稼ぐ力をつくるのか?です。
また、もう一つは、行政の非効率な費用部分を効率化することも重要なポイントです。少ない財でより大きな効用を作り出すことができれば、採算度外視でやらなくてもよくなり、民間資金や知恵でビジネス化できる可能性が広がっていきます。
課題の大きさは、市場の大きさでもあります。新しいテクノロジーを使うことではなく、今の社会コスト全体を低減させ、より多くの人がサービスをうけられるよう効率的にすれば、それはビジネスになるはずです。テクノロジーによって、効率的な代替サービスを作る可能性は大きいはずです。(木下氏)」





公を助けて、公を頼らず


最後に、ご自身が携わっているオガールプロジェクトを例に、公に頼りきったやりかたや、税金ですべてをまかなおうとする過去の延長線のやり方ではなく、それに代替するサービスの構築が今後求められていることを強調されていました。

「例えば我々がやっているプロジェクトでオガールプロジェクトというものがあります。公共施設である図書館と民間施設を一緒に開発し、図書館に必要な維持管理費を、民間施設のテナント料で捻出したり、民間の事業でやっている建物の固定資産税を役所に払うという仕掛けをつくり、地元の人の力で継続できるプロジェクトとなっています。すべてを税金でやると、税金がなくなると何もできなくなります。そうではなく、新しい方法を生み出すこと、公を助けて公を頼らない、いままでとは違ったシステムを作ることが今後求められていくことだと思っています。今ある社会システムや、今ある組織を維持するものではなく、民間の知恵とテクノロジーによって新しい事業をつくり、代替を生み出していくことをやっていただきたいし、していきたいと思っています。(木下氏)」



グラフィックレコーディング


こちらの講演のグラレコです。
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講演動画


ご興味をもってくださった方は、こちらから木下さんの講演をご覧いただけます。