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地域が元気になる一つの条件は、地元企業が稼ぐこと!

私は地域が元気になる一つの条件として、地域の企業が稼ぐようになることはとても重要なことだと思っています。その一歩として、経済がその地域で循環すること、さらには、他の地域でも展開され、地域外からもお金がはいってくるようになったら、それはもっと素晴らしいことだと思っています。
今回紹介する事例は、地域でがんばる地元企業の課題を、その地域にある大学と、その地域に住むITの専門家が、タッグを組んで解決していく事業についてです。

たくさんのシビックテック活動を取材する中で「地域の企業はIT活用について拒否反応を起こす」と聞いたことがあります。「ITで解決できるかも?」と思い、見積もりを依頼すると、高額が提示されるか、やりたいことができないかのどちらか。言っている言葉もわからないし、”ITは怖いもの”と認識されているようです。

そんな地域企業の方の課題をITで解決するには、まずは信頼関係を築くことがとても大切だと感じています。今回の事業でタッグを組んでいるIT専門家達は、お金をいただかない研究開発という形で課題解決に協力していました。全ては、地域企業が元気になれば、結果その地域が元気になるという一つの思いからのアクションです。「全国展開しているコンビニやスーパー等で買物をし、東京にお金を流すのではなく、(地域に根差して投資できる)地元の企業と一緒に新しいツールを開発して、地域内で経済をまわしたい(できれば地域発のサービスとしてさらに展開したい)」そんな気持ちからはじまった取り組みです。そんな取り組みが今回、県の支援事業に採択されたそうです。

地域での課題は、他の地域でも同じ課題をもっていることは少なくありません。地域の企業と膝を付き合わせて開発された地域発のサービスは、他の地域でも必要とされる可能性は高いのではないでしょうか。


同一地域の大学、企業、専門家がタッグを組んで地域課題事業をスタート

福島県会津若松市にあるコンピュータ専門大学である会津大学が、課題をもつ地域企業と専門家と学生が一体となったチーム、AOI(会津オープンイノベーションチーム)を編成し、地域課題を解決するための事業を始めています。各役割は以下の通りです。

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●課題をもつ地域企業(受入企業)
 ┗場や課題の提供

●地域の専門家
 ┗知識とノウハウの提供
 ┗コンサルティング
 ┗プロジェクトマネジメント
 ┗アプリケーションの開発など

●会津大学
 ┗教授によるサポート
 ┗市場調査
 ┗学生への自己成長機会の提供

AOIチームは、受入企業が持つ課題に対して、課題をもつ企業と一体となり活動していきます。
例えば、チームが店舗の施策に関与してデータとリアルな現場をつなげたり、ノウハウを仕様化したり、ツールを開発したりし、さらなるデータ取得のための検討と実証なども行なっていくなどです。
具体的には、最適な棚割り分析、チラシ配置最適化、導線解析、などのITツールを開発しているそうです。


ITに拒否反応を示していた地元企業が、なぜITで課題系解決を?

今回の取組は、専門家を受け入れる企業の存在がとても重要です。地域の企業の皆さんは、ITに関して拒否反応を示す傾向にあると、いろいろな地域で耳にします。今回のスーパーマーケットさんも例外ではありませんでした。某大手企業さんにシステムを任せており、お金ばかりがかかるイメージが抜けず、最初はITに対して否定的だったそうです。実行する体力もないし、全く取り入れる方針はなかったそうです。そんな地域企業の方が、今回のようにITで課題解決をしてみようと思い専門家を受け入れたのはなぜでしょう?

最初の取組は、ITとは全く関係がなかったそうです。会津大生がビジネスコンテストにて、新しい商品(名物)を提案し最優秀賞を獲得。その後「うちで売ろうか?」と言ってくれ、商品化したことがきっかけとのこと。

そのようなちょっとしたお付き合いから始まり、徐々に(ITだけではない)相談がくるようになったそうです。例えば、「東北は、早死率が高い。それは塩分の高いものを摂取し過ぎだからといわれている。スーパーは地元の食生活を提供しているところだから、その問題を改善する役割があるのではないだろうか?」というもの。そんな悩みから、「栄養科の短大の先生と一緒にお惣菜を考えてみたい」という相談がきたそうです。短大に相談したところ、スーパーのお惣菜の調理担当の人にアドバイスしていただきながら、新しいお惣菜シリーズができました。

このように、相手の立場にたったおつきあいで信頼関係が生まれていき、自分達の得意分野と無理矢理結びつけようとはしませんでした。そして、信頼関係が作られると、自然と会津大学の得意なところである「IT」を使って何かやってみようかという方向に話が進んだそうです。

今回は、専門家として、データ解析を得意とする株式会社toorさんや、アプリケーション開発を得意とする株式会社デザイニウムさんがリスクをとり、研究開発という名目でビックデータ解析の協力をしてくれています。そんな風に実験的に始動したことで、ITにも徐々に触れることになりました。そして、ジブンゴトの問題を解決してくれることを体感して「これは面白い!」と感じてもらえるようになったそうです。

体験してもらうことが、はやく理解してもらうコツ

昨今、オープンデータが騒がれていますが、地域の企業の人達からすると、自分達にどのように直接役に立つのがわからない。というのが本音な所。
また、行政のデータだけでできることは限られています。地元の企業のPOSデータ等のデータとの組み合わせをすることで、できることの可能性は広がるだろう。という考えもあるそうです。

そこで、今回の取組は、「まずは簡単に自分達に関係のあるデータを見える化しよう」と始められました。「自分達の課題をデータが解決してくれることを体験したら、データって使えるんだっと思ってもらえ、他のデータの活用についても考えてくれるはず」と考えてのことです。
そして、棚出しタイミングの最適化、最適な棚割り分析、導線解析などのITツールが開発されたそうです。

さらに、受入企業から「作ったツールは地域の商店街や、異業種でも活用できるものにしてほしい、自社をフィールドにしたものが会津発のサービスになるなら協力したい」という展開にまで発展しています。(協力いただける企業を募集中とのこと)

この事業を通して、課題を持っている地元スーパーの方との距離がさらに近くなり、雑談の中で「こんなツールが欲しいな」という言葉がこぼれたそうです。それは、最適な棚割り分析や導線解析など、一般的に世の中にあるようなものではなく、そのスーパー特有な問題を解決したいツールでした。そして、実際に求めていたツールが開発されました。著作権上の問題もあるので中身については詳しく書けませんが、そのツールは、社長と店長とのやり取りを、データに基づく会話に変えたそうです。

地方企業のIT活用があまりされていないといわれていますが、近い距離でアプリを作る人がいて、信頼関係ができていれば、ちょっとした「欲しい」もヒアリングでき、結果、商売と直結するニーズが拾えるのだと思います。「欲しい」といういうものを開発すれば、利用されないことはないですよね。まさにシビックテックとしてのツールのあり方だと感じました。
そして、「ICTってこうやって便利に使えるんだよ」と、無理なく伝えられる良い事例だとも感じました。


━━ 蛇足:めんどくさいこというよ!━━━━━━━━━
今回のお話をきき、先日のCIVICTECHFORUM2016でも徳島の坂東さんが、「地方のITは高いという常識」というお話をされていたことを思い出しました。


近い距離感で相談できる地域のエンジニアがいるということは、地元企業の方がITを利用するためにはとても大切なことだと思っています。
「仕事を発注する」という始まりではない付き合いがはじまり、信頼関係が生まれると、自然の流れで得意分野への仕事へ結びつく可能性が生まれる気がしています。

こういった事例が多く出てくることで、各地域企業の方々が、積極的に地元の集まりなどに参加して、地元のエンジニアの方と知り合い、地元企業へ発注するという意識を向けてもらえたらいいなと思います。

また、今回の事例は、この事業を推進している会津大学の藤井准教授からお伺いしました。藤井さんは以前から、お味噌汁理論を話されている方で、今回のお話はまさに、「流れが構造になった瞬間」とおっしゃっていました。
一朝一夕に成り立つものでは無く、日常の中で信頼関係を築き、温め続けられる関係があったからこそ成りたつものでした。

お味噌汁理論とは、簡単に言うと「対流が起こると構造が生まれてくる」というお話です。そのわかりやすい事例として、お味噌汁の「冷めると味噌とダシが分離するけれど、温めると構造が生まれる」事例をあげているため、まわりでは「お味噌汁理論」と命名されていますw。

お味噌汁理論については「流れが先で構造が後だとコミュニティは継続される」の記事で、コミュニティを例にして詳しくお話してくださっています。この考え方はシビックテックコミュニティにおいて、とても重要だと感じているので、まだ読まれていない方は、是非この機会にこちらの記事もお読みいただければと思います。