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(写真提供:のとノットアローン)

「活動をすすめる中で自分の孤立感が解消されました」

この言葉は、奥能登の子育て応援サービスである「のとノットアローン」のプロジェクトリーダー(現在はレプリンク)を務めていた坂井理笑さんの言葉です。のとノットアローンは、「子育て中の母親達が孤立しないように」という想いが込められたサービスです。
「想い」があれば「行動」するのか?といったらそうではありません。一瞬の行動であればするかもしれませんが、活動として継続的な行動することは、よっぽど強い「想い」がなければ難しいと思っています。
「活動」の際には、その活動を通して得られる「ジブンゴト」がとても重要なのだと思います。

坂井さんは「サービス利用者」としてではなく、「サービス運営者」として活動する中で、孤独が解消されたとのことです。

前編「NPOで活動している人の "欲しい" が形になるまで」では、主に「のとノットアローン」の成り立ちから、その後の広がり方など、サービスを中心にレポートしました。
後編である本稿は、サービスを運営している「人」にフォーカスをあてて、それぞれの「ジブンゴト」をレポートしたいと思っています。


モチベーションは変化する

前編「NPOで活動している人の "欲しい" が形になるまで」でもレポートしましたが、このサービスが作られたきっかけは、「アーバンデータチャレンジ」というオープンデータイベントでのアイデアソンです。その際に「子育て」というテーマに集まったチームで考えたアイデアがこのサービスの骨子となりました。
奥能登で10年以上「みらい子育てネット」の輪島市理事としてボランティア活動をしている山上幸美さん、元野々市市職員でありエンジニアでもある多田富喜男さん、能登にIターンしてきた坂井さんという、普段では出会わないような3人が出会って産まれ、この3名は今でも「のとノットアローン」の活動を続けています。
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(写真提供:Code for Kanazawa)

このサービスの特徴の一つは、「必要だったから作られた作品」という成り立ちです。「こんな課題があるだろう」という妄想のもと作られたものではなく、「奥能登の子育てイベントにもっときてもらい、ママの孤立をなくしたい。」という、明確な課題解決を目的にして作られています。
しかし、具体的な課題解決であればあるほど、ジブンゴトにできる人は少なく、運営を手伝ってくれる仲間は減ります。仲間が少なければ、継続の条件も厳しくなっていきます。

サービスが生まれるきっかけとなったアイデアソンから、もうすぐで3年目になろうとしています。そして、アーバンデータチャレンジのアクティビティ部門の金賞も獲得した「のとノットアローン」ですが、関係者のみなさまのモチベーションはどんなことだったのでしょうか?

・スタート時のモチベーション
「のとノットアローン」の特徴の一つとして、冒頭で「必要だったから作られた作品」とあげました。サービスそのものを必要としていたのは、山上さんや山上さんが活動していいる「みらい子育てネット」のメンバーのみなさまです。
アプリができる前には手作業でマップなどを作成しており、アイデアソンで多田さんや坂井さんと出会ったことで、それをアプリで実装するに至りました。

それを形にしたエンジニアの多田さんは、元野々市市の職員。地域課題解決の意識はもともと高く、長年通勤した野々市市で地域課題解決活動をしたいと考えていたとのこと。奥能登の課題解決は直接的には自分のしたいことではないけれど、いずれ自分の役に立つはずであり、力になれることがあれば協力したい。というモチベーションがあったそうです。

そして、いつのまにかプロジェクトリーダー(現在はレプリンク)になってしまったという坂井さん。能登にIターンで移住してきて、子育て問題についての意識はあるものの、実はこのサービスを直接的に求めていたわけではありませんでした。坂井さんがこのプロジェクトに大きく共感したのは「孤立の解消」という、サービスの先にあるテーマだったそうです。

つまり、このサービスの直接的な課題所有者は、山上さん一人だったのです。山上さんは「当事者」なのでモチベーションは継続します。
しかし、「当事者」ではない、多田さんと坂井さんは、最初の「想い」だけでこのプロジェクトを継続しているのでしょうか?


・継続のモチベーション
プロジェクトリーダーとして活動していた坂井さんは、直接的な課題保有者ではありません。にもかかわらず、活動にとても時間を割いていたように思えました。「そんな坂井さんのモチベーションはなんだろう?」と、私はとても興味をもちました。
活動をすすめるなかで、自分の孤立感が解消されました。何でも話せる人が増えました。楽しいと本当に思いました(坂井さん)

坂井さんは、まず山上さんを筆頭とする、奥能登のママたちの希望をまとめました。それをまとめる際、山上さん達が集まっているスペースへ足を運んだそうです。その場所は、地元のママも子どもをつれて集まる場所なので、おもちゃもあり、こどもと一緒にいったら誰かがこどものことも見てくれたそうです。坂井さんはこのスペースで作業していたら、こども以外のことを考えられ、とても充実していたそうです。
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(写真提供:のとノットアローン)

さらに、データや資料など、何かを作れるということが快感だったとのこと。「活動は大変ではなかったですか?」という私の質問に「活動しているときのほうがストレス発散になりました(坂井さん)」と回答に迷いはありませんでした。

多田さんは、山上さん達ママのアイデアをもらい、3週間で動くものを作りました。動くものを作り、要望をあげていたママたちに見せにいった際、「わー。ほんとに動いてるー」そんなママたちの素直な反応がとても嬉しかったそうです。
自分の作ったものが人に喜ばれる。それを実感できることは、今までにない新しいモチベーションですね。

最初のプロトタイプを披露してからは、多田さんもママたちの集まりに行き、要望を聞きながらバージョンアップをするようになったそうです。


のとノットアローンに学ぶこと

今回お話を伺い、私が感じたことは、2つあります。
一つ目は、活動に多くの協力者を集めるためには、直接的な課題の先にある、大きなテーマを見つけ、それを意識した発信をするといいということ。
のとノットアローンの場合でいうと、直接的な課題は「奥能登の子育てイベントに沢山の人が来て欲しい」でしたが、大きなテーマは「孤独の解消」でした。
「孤独の解消」というテーマであれば、共感を感じる人は多いはず。

二つ目は、活動へのモチベーションは人それぞれであり、活動するうちに新しく生まれる(気づく)こともあるということです。
だからこそ、それぞれのモチベーションを理解していくことはとても大切であり、新しいモチベーションに気づいたら、それをより感じてもらえる瞬間を増やすなど、関わっている人達が無理なく活動できる気配りは重要なのではないでしょうか。
誰かが誰かのにために動くのではなく、みんながみんな自分のために動いている状況というのが、継続的に活動が続いていくポイントなのだと思います。
活動に熱量を失いかけているプロジェクトのみなさまは、プロジェクトで活動している人たちが、活動で得られている「ジブンゴト」は何か?を、一度お酒を飲みながら話してみるといいかもしれません。


蛇足

私はCode for Japanというシビックテック団体に半年ぐらいお手伝いしていました。その理由は、各地でがんばっているBrigadeと呼ばれる人達を横でつなげたいと思ったからです。
各地で頑張っている人達は孤独になりがちです。そんな時、他の地域で同じように頑張っている人とツナガルことで、もう少しがんばれると考えたからです。

それは、私のTheWave湯川塾(2歩先の未来を創るコミュニティ)での事務局での体験が影響しています。
私はサラリーマン時代、今後世の中がどうなっていくのか?そのために会社がどのような対応をすべきか?などを考えていた時、未来の話をしすぎました。その時いわれることは、「今儲けることを考えろ」です。そして、未来を見ようとしない人達…。
そんな時に未来を読む塾である「湯川塾」の塾生になりました。湯川塾にくると、私よりももっと未来を見る人がいて、まだまだ勉強不足な自分に気付かされました。
会社にいると、前提(様々な海外動向などを含む)を理解してもらうことに時間が割かれ、本質的なことを話すこともできなかったのに、湯川塾に来てからの議論はすぐに未来の話ができて本当に楽しかった。

塾生として1.5ヶ月お世話になった後、事務局としてお手伝いさせていただくようになりました。事務局として関わってからは、塾に来る前には死んだ目をしていた人達が、生きた目になって塾を終えていく人を何人も見ました。

ある環境では孤独かもしれないけれど、外に出れば同じ境遇の人はいて、その人とツナガルことで孤独だった環境で再度がんばれる力を得られることを目の当たりにしてきました。

その経験と、この「のとノットアローン」の「孤独をなくしたい」という思いはとても重なりました。そんな風に共感したからこそ、話を聞き、とても応援したいと感じました。

そして、もう一つ。モチベーションは活動をしていくうちに、新しく見つけることができるということも自分の経験と重なりました。
湯川塾の事務局をしていると、思わぬところで仕事につながったりと、想定外のいい体験がたくさん訪れ、いろいろなモチベーションが生まれていきました。(そして気づいたら4年ほど続いています)
だからこそ、頭で考えるのではなく、時の流れに身を任せて新しいことにチャレンジにしていくことは大切で、そこを感じられる心の感度を持っていることも大切なのだと思います。

これからの「働き方」は、頭で計算できる「対価」ではなく、心で感じられる「対価(みたいなもの)」が重要となると思っています。
のとノットアローンに協力している人たちは、心で感じられる対価(みたいなもの)を感じられる人達が多く関わっているような気がしました。




著者プロフィール:鈴木まなみ(@rin2tree
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CivicWave運営メンバーの一人。
2歩先の未来をよむブログメディア「TheWave」の湯川塾の事務局を務め、テクノロジーの最新動向をウォッチしながら、コミュニティ運営や執筆活動中。
また、MashupAwards8〜11の事務局を務め、内外のコミュニケーション全般を担当。