生駒からシビックテックを創出するチャレンジ
3月4日(土)、ちょうどインターナショナル・オープンデータ・デイ2017の日に、奈良県生駒市の主催でIKOMA Civic Tech Award 2016が開催されました。
このコンテストは、9月から始まった年6回の啓発イベントを通じて、⽣駒市のオープンデータを活⽤した魅⼒ある⽣駒市の新しい未来の姿を想起させるアプリやアイデアを広く募集し、集まった作品の中から優秀なものを表彰するというもの。この日が最終審査に残った作品の公開審査会でした。
CivicWaveはメディアスポンサーとしてご協力させて頂いており、この最終審査会の様子をイベントレポートしてご紹介したいと思います。
▶市民協働で開催されたアワード
このIKOMA Civic Tech Award 2016は主催は生駒市ですが、企画運営には地元のシビックテックコミュニティであるCode for IKOMAが行っています。
僕自身、審査委員の一人として当日のミーティング等にも出席させて頂いていましたが、小紫市長はじめ市の方々とCode for IKOMAの皆さんとの距離感はとても近く、コンテストの目的にもある「市⺠の主体的な活動を通じて、公益性の⾼い情報やサービスを提供する」という形がコンテストと一連のイベントにしっかりと根付いているのかなと感じました。
とにかく、Code for IKOMAの皆さんで創ったイベントという感じがして素晴らしかったです。
アワードそのものは11/1〜2/3が応募期間になっていますが、単純にコンテストに応募してくださいという形にはなっていません。前述の通り、9月から年6回のイベントを通して、市民への啓発やアイデア創生に結びつけています。
例えば、初回のプレイベントとなる「オープンデータで街を元気にする方法」では、オープンデータに馴染みのない市民にも興味を持ってもらい、理解を深めてもらった後、アイデアソンを開催するという形になっています。
こういう啓発イベントとアプリコンテスト等が一体になっているという形は最近多く見られ、コンテストの応募数を増やすというだけでなく、市民自身の参加を促していくという良い面があると思います。
▶シビックテックは市民が創る
最終審査会の前に僕(福島)から「シビックテックによる地域課題解決とビジネスの可能性」という講演、そしてCode for Sapporoの久保さんから「さっぽろ保育園マップと仲間たち」という講演の二つが行われました。
僕の方は、Code for Kanazawaとして取り組んできた3年半で得られた気づきを中心にシビックテックコミュニティのあるべき姿のようなお話をさせて頂いています。特に、市民が主体的に関わっていくことの大切さと、そのモチベーションは決してお金ではなく、課題解決の必要性なんだという話をしました。同時に、シビックテックはビジネス領域としても魅力的で、そういったことを目指して営利法人として頑張っていく選択肢も大いにあるのだということを海外事例を中心に紹介させて頂きました。
久保さんからは、さっぽろ保育園マップがなぜ生まれたか?創ったものをオープンに公開することで、少しずつ全国へどうやって広がったか、が紹介されました。
僕が印象的だったのは、やっぱりこのさっぽろ保育園マップも久保さん自身が欲しくてたまらなかったというもの。欲しいから創りたい、創ったから運用したいという形になっていくんだなぁと感じました。
市民が創るシビックテックはエンジニアだけに限らず、こういうDIY(Do It Yourself)精神が不可欠なのかもしれません。
▶給食のアレルゲン管理と食育をサポートする
最終審査に残ったアプリやアイデアはどれも多様で素晴らしいものだった気がします。アプリ部門は4作品、アイデア部門は5作品が最終審査でプレゼンをされましたが、今回は最優秀賞を受賞した”4919(食育) for IKOMA”をご紹介します。
全部を紹介しきれなくてすみません。当日の公式レポートはこちらにありますので、こちらもご覧ください。
最優秀賞の”4919 for IKOMA”は「給食のアレルゲン管理と食育をサポートする」というテーマで開発されたアプリです。奈良先端科学技術大学院大学に通う学生が開発したもので、<子育ての街>生駒市において子供が育つ大事な要素である食事、特に給食に注目しています。
昨今、給食でのアレルギー事故も多く、悲しい死亡事故も起きていますが、この”4919 for IKOMA”はそれを防ぐ助けにもなりえるアプリです。
今はアレルゲン情報を献立カレンダー内で見るだけですが、今後、事前に登録しておいたアレルゲンが含まれる日は通知が来る機能や教員がクラス単位で生徒のアレルギー状態を管理する機能などが考えられています。
課題が明確なところ、その課題がとてもシンプルでみんなが納得できるところ、そしてその解決方法もシンプルなところが最優秀賞に結びついたのかなぁと感じています。
シビックテックのプロダクトは、一般の人が利用されることを想定して創らなくてはいけないため、その操作性はもちろんですが、アプリそのものが分かりやすくなくてはならないです。「このアプリって何のためにあるんだろう?」って少しでも思ってしまうアプリは受け入れられません。そういう意味では、この”4919 for IKOMA”は、とても分かりやすいと思います。
また、僕個人として興味を覚えたのは使っているオープンデータです。
生駒市では給食献立がオープンデータとして公開されていて、しかもその中身にはアレルゲンの情報も含まれています。
アレルゲン情報まで含まれている給食献立オープンデータは珍しいのですが、これがなければ”4919 for IKOMA”は誕生しませんでした。つまり、オープンデータがあったからこそ、市民が創り出せたアプリだというわけです。
オープンデータを出す意味に疑問を感じる(積極的になれない)行政の方はぜひ、こういうケースがあるのだということを感じて欲しいなぁと思います。
印刷物で出しているだけでは、4919 for IKOMAが目指すようなサービスは実現できないと思います。
▶地域の人たちが自然に参加している状態こそシビックテック
Code for IKOMA代表の佐藤さんは今回のアワードを終えて、今後の展望をこんな風にコメントしています。
「コンテストをやってアプリやアイデアを集めるということが全てというわけではなく、最終的に目指したい世界は、市民が常日頃やっている活動が気づいたらCivic Techだった、という世界です」
本当にその通りだと思います。
コンテストにたくさん応募してもらうということがゴールではありません。ついついそうなってしまいがちですが、それはあくまで結果の話。
市民が(ちょっとした)テクノロジーを使って自分たちの生活や街を良くしていこうという気持ちを持っているか否かが最終的に大事なところで、それがしっかりと根付いた街こそ、最終的にやった価値があったということになりそうです。
日本全国でたくさんの課題があります。誰かがそれを解決してくれる時代は終わろうとしている今、生駒市とCode for IKOMAのような取り組みが最終的に市民力を上げることにつながり、それが困難な課題に行政と市民が手を取り合って取り組むことができる道につながるのかもしれません。
著者プロフィール:福島健一郎(@kenchif)
CivicWave運営メンバーの一人。
一般社団法人コード・フォー・カナザワ(Code for Kanazawa) 代表理事、アイパブリッシング株式会社 代表取締役
Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは100都市以上に展開。