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CC BY-SA Peretz Partensky


学術資料のオープン化にもコミュニティの力を!
先日、某所で話題提供をさせて頂く機会を頂き、学術資料のオープンデータ化について話しました。アカデミックな立場ではなく、あくまで民としてオープンデータやその利活用を推進する立場としてお話したのですが、とても刺激的でしたし、これはシビックテックにも関連すると思ったので、あらためてまとめ直してみました。

学術資料って?


僕は会社の創業期の頃から歴史資料の利活用などに興味を持って色々とやってきました。
その一環として二年少し前から、一緒にやってきた方々とともに一般社団法人学術資源リポジトリ協議会を立ち上げ、現在も理事として活動を続けています。協議会では、特に学術資料の利活用やオープン化に携わりたいと思っていまして、現在も具体的な活動につなげていくべく日々精進です。

さて、皆さんは学術資料っていうとどういったものを思い浮かべるでしょうか?
一般的に学術資料とは研究や調査の基礎となる材料のことで、様々な研究分野がありますから多岐に渡るものです。歴史を研究していれば古文書などが該当しますし、地学などであれば珍しい鉱石も学術資料となります。
そして、こういった学術資料は資料館や博物館、美術館などに保管されていたり、それぞれの研究者の方が個別に保管されていたりします。

今、国内ではオープンサイエンスの議論が盛んで、日本学術会議でも提言書が提出されました。
「オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言」
この中では、特に「研究データのオープン化」と「データ共有」のあるべき姿について提言されています。
提言書の中では、オープンデータの話にもよく出てくる「コストと利活用のバランス」や「インセンティブ」などについても言及されていて、行政がオープンデータを進める際の課題とよく似た話が出ています。

研究リソースを広く共有・活用するとは?


このオープンサイエンスの波に合わせて、学術資料がどんどんデジタル化され、アーカイブ化され、公開され始めています。目的は研究リソースを広く共有して活用するためと言われています。

では、ここで言う「広く」とはどういう意味なんでしょうか?実際、公開され始めている多くの学術資料のライセンスを見ると、「研究・教育の目的のみ」という言葉や「非営利」という言葉がとても目立ちます。
実際、著作権切れの資料についてもそういった制限がついているものも多いです。僕などは素直に「なぜだろう」と思ってしまいます。利活用に制限をつけることは、どこまで価値があるのだろうか?と。(もちろん公開できないものや制限をつけなければいけないものがありそうだということは分かります)
例えば、前提として「オープンであること」とし、それが難しいものには「制限をつける」という考え方でも良いのではないかと考えてみたりもします。

ただ、僕は学術研究という立場に身を置いていませんので、まだまだ分からないことが多いです。そういう意味では「自由な利活用のために学術資料のオープンデータ化を前提とした議論の場」がとても大事なんだろうなぁと思います。

学術資料のオープンデータ


そんな中、国文学研究資料館さんと人文学オープンデータ共同利用センターさんの活動にはとても興味があります。既に日本の古典籍(明治以前の書物)のデータ(700点の各作品についてその全冊(約16万コマ)のJPEG形式の画像データ、書誌データなど)がCC BY-SA等で公開されていたり、変わったところでは江戸料理のレシピデータが同じくCC BY-SAで公開されています。
このCC BY-SAというのは著作権表示さえどこかにしっかり明記し、利用した作品についても元データと同様なCC BY-SAのライセンスをつけてくれれば何にでも利用できるというものです。
通常のオープンデータはCC BYという著作権表示のみのライセンスですから、それに比べれば若干制限はあるといえばあります。

この人文学オープンデータ共同利用センターさんはデータの公開だけでなく、古典籍を利活用するアイデアソンを開催したり、LODチャレンジ2016のデータ提供パートナーとなっていたりして、その利活用まで積極的に進められているように見えます。

※他にも学術資料のオープンデータ化について興味ある公開先が幾つかあるのですがここでは割愛します。

公開と利活用はセットで考える


どんなオープンデータも公開と利活用をセットで考えることは大事です。”利活用できなさそうなものは公開しない”、そういう意味ではありません。
公開側と利活用側を分離して考えるのではなく、互いにコミュニケーションをとりながら進めていくことが大事だということですね。そうすれば公開側はより良いデータを出すことができるだろうし、利活用側は積極的にデータを活用できるようになると思います。

具体的な事例として、僕が関わる石川県能美市の事例をご紹介します。
能美市では、ウルトラアートという取り組みを2013年から始めています。その成り立ちなどは、Qiitaでも「石川県能美市が進めるアートxオープンデータの取り組み」として書かせて頂きました。

今、能美市では、能美市立九谷焼資料館の九谷焼という伝統工芸の画像写真をCC BYで公開し、その素晴らしい絵付けの画像の利活用を促しています。

アート作品アーカイブ   ウルトラアート


これらのデータは徐々に利活用され始めています。

ドラゴン九谷は、九谷焼の湯呑み茶碗に斎田道開の見事な龍をプリントして作られています。
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能美市の九谷陶芸村にある巨大な九谷モニュメントに投影する映像コンテンツとしても使われました。
projection

金沢のヨシタデザインプランニングさんは、見事な紙皿にプリントしました。他にも様々な生活商品に展開できないか検討されています。
tray

また、金沢のTAKATA建築さんは、なんと!新築の住宅にこういった九谷焼を活用し始めました(もう少し情報が公開できるようになったら取材させて頂こうと思います)。
house


他にもまだ利活用事例があります。

これらの利活用の源泉は何なのでしょう?勝手に生まれるわけはありません。
ウルトラアートという能美市の取り組みには、(僕も参加する)市民コミュニティが存在し、彼らの活動の一つ一つが根を張って利活用を促しています。
”オープンデータとは何か?”、”どういった可能性があるのか?”から始まって、その可能性に共感した作り手が試してくれる土壌がそこにはあるんです。

学術資料のデータ利用にもコミュニティを!


公開側の視点だけでは、なかなか利活用モデルは生まれにくいです。
ですので、学術資料に興味がある人たち(それは一般の市民も大勢いると思います)を積極的に取り込むことをお勧めします。
そうすれば、もっと学術、サイエンスはオープンになり、市民に開かれたものになると思います。

一部の人だけではないサイエンスって素敵じゃありませんか?



著者プロフィール:福島健一郎(@kenchif
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CivicWave運営メンバーの一人。
一般社団法人コード・フォー・カナザワ(Code for Kanazawa) 代表理事、アイパブリッシング株式会社 代表取締役
Code for Kanazawaが開発した5374(ゴミナシ).jpは100都市以上に展開。