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Code for KanazawaのCivicHackNightにてβ版の公開を発表するプロジェクトリーダーの鳥毛さん


Code for Kanazawaにてかねてより進められていた、市民の課題と解決者のマッチングプラットフォームプロジェクト「Ha4go」が、パブリックβ版のリリースを行うとの事で開発チームのみなさまにお話を伺ってきました。
※7/14(木)の14回目のCode for KanazawaのCivicHackNightにて公開されました

Code for Kanazawaのみなさまにインタビューをさせて頂き、「Ha4go」を市民課題と解決者のマッチングプラットフォームとご説明するだけでは物足りないと感じましたので、本エントリでは私自身が感じたCode for Kanazawaの試行錯誤の様子を踏まえてお伝えしたいと思います。
その試行錯誤とは、ビジネス的なエコシステムとは違う「シビックテックのエコシステム」に関する事です。


Ha4goとは

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「Ha4go」は、一言で言うと、シビックテックプロジェクトの進行をサポートするツール。
パブリックβ版では「課題保持者」と「解決者」をマッチングさせる機能から開始をするとのことです。

市民との対話ツールとして「課題」と「手を動かす人」の距離をもう少し近づけ、また、「地域にどんな課題があるのか」を可視化させる役割りも担うものとしても準備が進められています。

Code for Philly などの米国Code fof America Brigadeが利用している、Brigadeのプロジェクトや活動の可視化を行うCMSツール「Laddr」の日本版とも言えます。
※「Laddr」は、Code for Phillyの他にも、 Code for Miami、 Code for Croatia、Creative Commons Korea、 Code for Caryなど、多くBrigadeに利用されているツールです。


プロジェクトは、プロジェクトリーダーの鳥毛さん、メインプログラマの加藤さん、デザイナーの松尾さんの3名で構成されています。
ただし、Code for Kanazawaにおけるプロジェクト運用には、伴走者(アドバイザー)となる方が参加されており、「Ha4go」は清原さん、井澤さん、福島さんの3人が伴走し、二人三脚で運営されています。
※伴走者は新米リーダーの悩みに対して適切な助言を与えます。非営利型のシビックテックコミュニティのプロジェクトでは未経験のことがたくさんありますが、そんなときに「こうやってみてはどうか」と教えてくれる存在(「地域にはリーダーではなく、ともに並走する伴走者こそが必要」より)

パブリックβ版はシンプルな機能になっていますが、将来的には、「シビックテックプロジェクトの見える化」をしたいそうです。
シビックテックプロジェクトには以下の4つのフェーズがあり、「どのフェーズにあるのか」が可視化されていくことが必要といいます。
 ー課題が集約整理されるフェーズ
 ー人を集めるフェーズ
 ーものを作るフェーズ
 ー運用フェーズ
それは、それぞれのフェーズ毎に必要とされる能力や人が違うからです。そして、それぞれのフェーズごとの知見を蓄積すれば、これからプロジェクトを始める人の参考にもなります。
また、成功事例やその開発や運用の過程も第三者から見られるようにしバッチシステムなどを乗せることで、「Ha4go」内で自分の貢献について人からフィードバックされる機能(Githubのstarなどと同様)も付け加えたいと考えているとのことです。


シビックハッカーにモチベーションエコシステムを!?「Ha4go」に秘められた思い

前述の通り、「Ha4go」を市民課題と解決者のマッチングプラットフォームとご説明するだけでは、物足りないと感じたので、私自身が感じたCode for Kanazawaの試行錯誤の様子をお伝えしたいと思います。

日本のシビックテック先進の地である「金沢」では、CivicHackNightを月1回行い、現在9個のプロジェクトが稼働中。約80名程が自律して活動をされています。
以前のエントリでは、シビックテックの課題保有者とのプロジェクト運営について触れられています。
課題保有者を中心として、周囲を巻き込みながらプロジェクトが進行していくスタイルは、課題保有者自身の課題であるから突進力もあります。
 (参考:「作ってくれませんか?ではなく、プロジェクトを作って自分たちでやりましょう」

また、Code for Kanazawaは運営ポリシーとして、「民間でできる事は民間が担う(ビジネスエコシステムで回せるところは、ビジネスエコシステムで回していく)」というポリシーを持っています。
 (参考:「市民」としてのポジションを明確にしたポリシー
つまりCode for Kanazawaの活動領域は、ビジネス的に解決を進めていくことが実現しにくい領域を対象としており、そういうものからこぼれ落ちてしまう課題を対象としています。


では、課題保有者でもなく、ビジネス的なモチベーションでもなく、課題解決に参加をしていくエンジニア(シビックハッカー)などはどのようにモチベーションを構成していくのでしょうか。

お話を伺う中で、シビックハッカーのモチベーション維持における課題感がいくつか見えてきました。
 ・プロジェクトの過程が見えないため、周りから評価されにくい
 ・リリース後のサービスを運用していくモチベーションエコシステムがまだできていない
 ・ハッカソンなどで短期的にプロダクトを作ってしまうと課題保有者を巻き込みづらい
 ・プレイヤーの流動性が高く、こうしたいという気持ち(モチベーション)が使い捨てになりがち

「Ha4go」プロジェクトの根底にはこれらの課題意識がありそうでした。
パブリックβ版では、「市民課題と解決者のマッチングプラットフォーム」といったシンプルなものですが、目指すものは上述のシビックテックを継続し続けるための課題を解決し、「シビックテックに関わり続ける人達のモチベーションを回すためのエコシステムの構築」なのだと感じました。

今後の展望や理想で語られた機能は、活動に「評価」「尊敬」されるという活動のアウトカムを取り入れ、ビジネス的なエコシステムとは違う「シビックテックのエコシステム」を「Ha4go」で形成することが、現在感じている課題への解につながるのではないでしょうか。

現在シビックテックのモチベーションエコシステムはどこにもなく、誰かがそれを作ってくれるわけでもありません。
「Ha4go」は、シビックハック活動者のそんな課題を解決したくて生み出されたもの。
つまり、地域課題を解決したいと思うCivicHackerによるCivicHackerのためのプロダクトであり、自分たちでエコシステムを構築する、まさにシビックテックのDIY精神そのものだと感じました。
 (参考:5「タダでコードを書くのはなぜ?」に明解に答えるハッカー 石川県のシビックハッカー プレゼン大会にて)
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写真は「Ha4go」のプロジェクトメンバーのみなさま


シビックテックを続けるということ

今、米国では「シビックテックの継続」に関して、危機感を感じずにはいられない動きがあるので、ここで共有させていただきます。

以下の2つのエントリーは資金的な問題、モチベーション的な問題、市民や行政との距離感、、、などの面でシビックテック活動を続けるということの難しさと、続けていく事の重要性の両方を感じさせてくれるものでした。(※情報提供:柴田重臣さん)

まずは、2016年5月にオークランド市のシビックテック団体、オープンオークランドの共同キャプテンが二人共、引退するというニュースです。
こちらの記事は、シビックテック団体の運営の難しさ(NPO団体や活動家でもないし、テックスタートアップ企業とも言えない)と、キャプテンの引退に言及しているものです。
 ・OPENOAKLAND AND THE SEARCH FOR SUSTAINABLE CIVIC TECHNOLOGY/Civicist

一方シカゴでは、シビックテックメディアのCivicistに、シカゴ市のシビックテックエコシステムを支えるシカゴ・スマート・コラボラティブCEOのダニエル・オニールさんが「シビックテック団体をいかに継続可能にするのか」というエントリをあげました。
 ・TOWARD SUSTAINABLE COMMUNITY TECH ORGANIZING/Civicist

「Ha4go」は、「シビックテック団体はなかなか継続されない」という課題に対する、Code for Kanazawaの試行錯誤の一つだと感じました。


蛇足

今回のお話を伺うにあたり感じたことの一つは、Code for Kanazawaのコミュニティ層の厚さです。

シビックテック活動を継続していくために必要なことを多々あり、それらは密接に交わっています。
「Ha4go」は、そのうちの一つの側面を満たすための機能を持つツールであるため、「Ha4go」を使ったら誰でも、素晴らしいシビックテック活動ができるわけではありません。

シビックテックを浸透させる文化があって、それを支えるエンジニアの方がいて、そもそも市民との対話を行う信頼や関係性を構築しており、広くシビックテック活動を支えていく基盤があって初めて活かす事が出来ます。

シビックテック活動について真剣に向き合い、そのエコシステムが回っていなければ自分達で作ってしまうという自浄作業が働く。Code for Kanazawaは、様々なスキルや立場の方が参加し、ポリシーに則って行われ、市民と対話し続けているシビックテック団体だからこそ、Ha4goが必要になり、それを活かす事が今後期待できるのでは無いでしょうか。
 (参考:過去のCode for Kanazawaに関する記事


この記事をご覧になられているみなさま。
「Ha4go」はとても可能性があるサービスではあると思いますが、是非ツールの導入から入らずに、シビックテックの土壌を育てるところから考えて頂けると幸いです。

最後にプロジェクトにアドバイザーとしてかかわられている清原さんの言葉をお借りしたいと思います。
「Ha4goが必要な理由は、続く原動力。市民の生活を変える、それはずっとかえつづけなければならない。」
この気持が、CfKをシビックテック団体の最前線たるゆえんとし、「Ha4go」を生み出していく文化を作っているのではないでしょうか。



著者プロフィール:伴野智樹(@tomokibanno
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CivicWave運営メンバーの一人。
MashupAwards事務局/CIVICTECHFORUM事務局
ミッキーマウスの声真似が得意です。