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今回神戸市とバルセロナ市が連携して行った「まちづくり×ICT」をテーマとしたワークショップのレポートを、参加した神戸大学の和田 佳大さんに書いていただきました。
学生でありエンジニアでもある和田さんは、何に興味をもち、どんな感想をもったのでしょう?(鈴木)

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6/14から6/18の5日間の日程でバルセロナにて開催された「World Data Viz Challenge」の1st Stageワークショップに参加してきましたので、その参加レポートを寄稿します。

ワークショップを通じ、スマートシティの取り組みの姿勢やオープンデータに関して、バルセロナと日本では大きく違う印象を受けました。
例えば、バルセロナにおけるオープンデータは、センサーデータなど最新のテクノロジーを取り入れダイナミックに置き換わるようなものが多く、日本の静的なオープンデータとは違う...などです。

これらの詳細を、ワークショップの中で、エンジニアである自分が気になったものを幾つかピックアップしながら紹介したいと思います。


ワークショップの概要

今回参加した「World Data Viz Challenge」とは、神戸市とバルセロナ市が連携し「まちづくり×ICT」をテーマとする、データビジュアライズの国際ワークショップです。
1stStageはスペインのバルセロナで開催され、2ndStageは神戸市で開催される予定になっています。

1stStageへの参加には、「データビジュアライズ作品」についての選考がありました。
選考時に作品は完成してなくてもよかったのですが、ワークショップ発表時には完成させておく必要があったため、出発前までにがんばって完成させ、本番に望んできました。

ワークショップは、日本で選考を通過した一般参加者が15グループ、そして、カンファレンスなどに登壇した企業(日本、スペイン)など、およそ50名で行われました。構成は次の通りです。
  • バルセロナにおけるオープンデータ利活用に関する取り組みの紹介
  • 企業参加者の発表(Yahoo!Japan|Eurecatなど)
  • 選考を通過した一般参加者の成果物の発表(15グループ)
  • スマートシティに関するカンファレンス
     ┗日本やスペインのスマートシティに関する取り組みの紹介とパネルディスカッション
  • バルセロナ「まちづくり×ICT」先端ツアー

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蓄積されたデータを地域や10代に活かしていきたい「Yahoo!Japan」

Yahoo!Japanは、「良いサービスを作り,人々の生活の課題を解決して,日本を良くしていこう」という思いから「UPDATE JAPAN」というビジョンを掲げています。
いまや、1秒間に5万回のアクセスがあり、1日で125TBのデータが蓄積され、100種類を超えるアプリがあるYahoo!Japanは「マルチビッグデータカンパニー」となっています。
そこで「インフルエンザの流行」や「リニア新幹線によって3時間で移動可能になる地域の可視化」や「より簡単な地域の検索サービスの提供」など、地域の経済活動の活性化のためのプロダクトを多く展開しています。

そして、今回のワークショップでは「DATA FOR TEEN」と題して、”10代のためにデータをどのように活用できるのか” という試みを行っていました。
目標は、データの可視化によって、まだ社会との繋がりが身近に感じられない10代が、人生において大切な選択をする際にサポートすること。
「少子高齢化に伴う出生率の向上」という例を挙げて、10代にもリーチできるようなデータの可視化を検討していました。

このように、「10代」と明確にターゲットを想定し「何が知りたいのだろうか」「どのようにすれば伝わるのだろうか」と試行錯誤し、メッセージに多様性をもたせるという考え方が面白かったです。
企業がサービスによって集まったビッグデータをただ可視化するのではなく,それぞれの人にあったデータをそれぞれの人にあった見せ方で提示する。
これが、ビッグデータの可視化の1つの答えだと感じました。


市民が政治家の会議に発言することのできる「decidim.barcelona」

decidim.barcelona」は、これまではオフラインで政治家だけの会議によって決まっていた市の計画といった議論に、市民が簡単に参加できるようにすることを目的としたプラットフォーム。
オフラインでは、議論の規模を大きくしようとすると単純に部屋の規模を大きくすると言った手段しかありませんでしたが、オンライン上にプラットフォームを作ることで容易に規模を大きくしました。
プラットフォーム上で会議を行い、市民はそれを見て自由に発言することが出来ます。

オフラインでのイベントを否定するわけではなく、オフラインでのミーティングもプラットフォーム上に公開することで、オンライン上イベントの企画プロセスを議論が続く形で可視化したいとのこと。
ユーザは行政の提案に投票やコメントができ、そのコメントに投票やコメントをすることで議論に参加できます。そして、提案自体の概要とそれに対する賛成/反対の比率や、リアクションが多いユーザの可視化がされています。

仕組みとしては、カタルーニャ市の研究機関である「Eurecat」のプロジェクトの中で、Consulというオープンソースをベースにバルセロナ市用のサイトとして構築されたようです。
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素晴らしいと感じたのは、クローズドになっていて何が起きているかわからなかった身近な自治体の政治・議論を、可視化して一方的に市民が把握できる手段を提供するだけでなく、反応も取り入れ、インタラクティブな議論に発展させたところです。
そして、オフラインのミーティングに、多くの市民が参加しやすいよう、拡張性が特徴であるオンラインでの議論をつなげたところもいいなと思った点です。


都市のリアルタイムモニタリングを可能にした、センサプラットフォーム「Sentilo」

Sentilo」は、2013年にSmart City EXPOで発表され、バルセロナ市を中心として稼働しているオープンソースのセンサプラットフォームです。センサとそのデータを利用するアプリケーションをREST APIにて介在したり、設置されているセンサの状態を可視化、及び管理するプラットフォームとなっています。
パブリックな目的だけでなく、個人的な利用も可能です。

バルセロナがスマートシティでリードするために非常に重要な役割を持っているそうです。
バルセロナ市では、1台で10個程度の項目をセンシングすることのできるセンサノードをバルセロナ市内に1850台設置し、それらによって300万レコードが1日に更新されるようです。
力を入れている項目は、「電力消費」「騒音」「ゴミ」「パーキング」などです。そこで集められたデータを元に、研究機関での研究や、バルセロナ都市生態学庁(BCNEcologia)での分析、施策が行われています。
また、データ送信には、既存のバルセロナ市公共Wi-Fiを利用しているため、ランニングコスト(ネットワークコスト)の負担はありません。
そして、Sentiloの開発によって都市のリアルタイムでのモニタリングが可能になりました。ダッシュボードが用意され、パターン抽出を行い、担当者がそれを見ることで「どこで異常が起きているのか?」「どこのセンサノードに対策を行うべきなのか?」など、効率的にマネジメントを行うことが可能となっています。

利用は国内外で広がっており、2014年にバルセロナ近郊の市へ、2015年にはドバイ・ブリュッセルといった国外へ広がっています。利用が広がるとともに、「Sentilo」を扱う自治体やスポンサー、興味がある人たちで構成されたオープンなコミュニティが発展しており、そこで立ち上がっているフォーラムでは、Sentiloに関することを自由に議論できます。

個人的には、この「Sentilo」が今回のワークショップで一番印象に残りました。
クローズドなセンサプラットフォームではなく、コミュニティを持った完全にオープンなセンサプラットフォームとして、行政と企業の間で連携をとって開発・運用を行っている点が興味深かったです。
集めたデータ自体はクローズドなものとなっているそうなので、このデータもオープンデータやAPIとして、市民が自由にセンサデータを取り扱えるようになればより素晴らしいと感じました。


参加して感じたバルセロナと日本の違い

・スマートシティの取り組む姿勢の違い
現地の方の発表では主に「バルセロナがどのようにしてスマートシティを牽引しているのか」という話に主眼が置かれていました。
バルセロナにおける取り組みの紹介や「まちづくり×ICT」先端ツアーを通じ、バルセロナでは行政が主体となって民間や企業と連携し、オープンデータだけではなく様々な方面からスマートシティを推し進めているという実態を、至る所で感じました。
具体的には以下のようなところです。
 ・街中に配置された市の85%をカバーできるWi-Fiスポット
 ・交通情報や行政情報、広告の配信ができるスマートバスストップ

また、ゴミ箱に設置されたセンサで最適な収集ルートを算出するという話を聞く中で「既存の仕組みを尊重し、それらをよりスマートにかえていく」姿勢をとても強く感じました。
一方、日本のスマートシティへの取り組みは「新しいスマートな街を作り上げていく」というアプローチが多いように思います。そのような姿勢とはまた違うものがあると思いました。

・オープンデータの違い
オープンデータという観点からも違いを感じました。バルセロナで提供されているオープンデータは「ただ出しておわり」のデータではなくて、
 ー利用者が使いやすいような形
 ーセンサデータと言った最新の状況にダイナミックに置き換わるようなデータが多い
 ー産学官の連携がしっかりと効いたオープンデータの利活用の取り組みがなされている
という印象を持ちました。

一方、日本のオープンデータは、「施設のオープンデータ」のように、静的で動きがないデータが多く、現状を映し出すようなデータが少ないという印象です。実際にオープンデータを利用してアプリ・可視化を行おうとしても、リアルタイム性を持たせるためには他のデータやAPIを組み合わせる必要があります。
「オープンデータだけでも十分に面白いことができる」という状況になれば、より利活用が楽しくなるのではないかと感じました。


・一般参加者の発表
1stSTAGEという途中経過ということや、応募・選考から発表までの時間が足りなかったこともあると思いますが、実際にデモが動いていない、デモや作品のイメージがない、発表がしっかりと練られておらず、良い所が伝わりにくかったところがいくつか見られました。
企業の発表や、先端ツアーから学ぶものが多かったのですが、一般参加者の発表は少し残念だったように思います。
10月の神戸での2ndStageでは、今回のフィードバックや時間もあるため、全員の作品の良さがしっかりと伝わるような発表になることを、今から楽しみにしています。
僕も1stStageで得たことを活かして、もっと頑張りたいと思います。



著者プロフィール:和田 佳大(@e10dokup
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現在、神戸大学に通う、元明石高専生エンジニア。MashupAwardsには2年連続で2ndStage(準決勝)進出してます。ハッカソン好きです。