「未来はただそこにあるのではない。未来は我々が決めるものであり、宇宙の既知の法則に違反しない範囲で望んだ方向に向かわせることができる」 アラン・ケイ

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「シビックテック」をご存知でしょうか?

シビックテックとは、シビック(Civic、市民の・みんなの)とテック(Tech、テクノロジー)をあわせたものです。「テクノロジーを活用しながら自分たちの身のまわりの課題を自分たちで解決していこう」という考え方やムーブメントを意味する言葉です。

とはいえ、シビックテックにはまだ厳密な定義はありません。

人や立場によって定義は違いますし、時間とともに変わっていく場合もあります。それは「自分たちがより良い世界を実現したい」という市民の思いから出ているからです。「より良い世界」は人によって違いますし、実現の方法もそれぞれです。

「自分たちがより良い世界を実現したい」という思いさえあれば、定義にはそこまでこだわらなくても良い。むしろ、いろいろな考え方の違いを受け入れることは、「より良い世界」を実現する第一歩なのです。

シビックテックの歩み

もともと、シビックテックという言葉が明確に意図して使われ始めたのは米国です。

2000年代中頃以降、ウェブの新しい利用法を指す流行語として「Web 2.0」という言葉が使われ始めました。その提唱者である、オライリー社の創業者ティム・オライリーは、これを行政にも拡張し、「Government 2.0」を提唱したのです。

従来のように、税金を払えば行政サービスが提供される自動販売機モデルでは市民の要望に応えられなくなっている。行政は必要なデータやリソースを提供し、市民が必要なサービスを決定できるようなプラットフォームとして機能してほしいという主張です。そのプラットフォームとしての行政と協働しながら市民自身が課題を解決していくのがシビックテックなのです。

「行政サービスをスマホのように使いやすく」

AmazonやGoogleなど先進のサービスに慣れた市民は、行政にも同じレベルのサービスを求め始めました。同時に財政逼迫による行政サービスの質の低下は、格差にあえぐ市民に行政への信頼の低下と不安をもたらしました。

このような変化のもと、行政に対して不満をぶつけるだけだった市民が立ち上がり、自分たち自身がテクノロジーも活用しながら、より良い世界の実現に参画する活動を開始しました。これがCode for Americaなどに代表されるシビックテックの誕生です。

Code for Americaの最初のキャッチフレーズは「行政のサービスをスマホのように使いやすく」でした。当初、行政の効率化にターゲットをしぼっていましたが、その後、草の根による地域の課題解決まで自然に発展していきます。

また、シビックテック・スタートアップと呼ばれるビジネスを立ち上げる人々も生まれました。このように米国では、シビックテックが市民・行政・企業を含むエコシステム(生態系)とも呼べる状況を構成し、現在も発展を続けています。

日本全国に広がる、草の根シビックテック

一方、日本でもCode for Japanが2013年に設立されました。互助の文化的背景を持っていた日本では、草の根的な活動を行うシビックテックが多いのが特徴です。設立から3年で、ブリゲイド(IT消防団)と呼ばれるコミュニティは全国で50以上存在しています。

そこでは、地域をよく知るための活動としてのマッピングパーティーや、複数のメンバーがチーム単位で特定の課題のアイデアを出し合うアイデアソンと呼ばれるワークショップが行われています。他にもハッカソンと呼ばれる短期間でアプリを生みだすイベントや、行政データのオープン化をすすめる集まりなど、地域に応じて多様な試みが行われています。

日本発のシビックテックサービスも次々と生まれています。

例えば、Code for Kanazawaが2013年9月に金沢市で公開した「5374.jp」は、「いつ、どのゴミが収集されているのか?」がひと目で分かるアプリです。他の地域にも使ってもらおうとソースコードを公開したところ、現在までに全国25都道府県で5374.jpが誕生しました。
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2013年9月に金沢市で誕生した「5374.jp」は、日本各地へ広がりを見せている

Code for Sapporoが公開した「パパママまっぷ」は、地域の有志が保育園情報を追加できる地図サービスです。こちらもソースコードを公開した結果、北は北海道から南は沖縄まで、地域の人が使えるサービスとして広がっています。

これらのサービスに参加しているメンバーは、エンジニアだけではなく、地域の世話役、NPO、学生など多様な人々です。

シビックテックの期待と課題

従来の地域コミュニティが崩壊しても、ネットワーク化された市民たちは大きな力を持つのです。たとえ、ひとりひとりの力は小さくても、その力で少しずつ世界を良い方向に変えていく。自分たちでも何かを変えることが出来るという信念。社会を構成する人の一部でも、そのような信念を持ち行動を始めると、その波は少しずつ広がり社会により良い変革が起こる。

テクノロジーは決してシビックテックの本質ではありません。ネットワーク化された市民たちが自らで行動を起こすことこそ、シビックテックなのです。シビックテックは静かな革命とも言えるでしょう。

シビックテックは多様な課題を扱い、また地域によって条件が違うため、起こっている問題もそれぞれです。目指すシビックテックの理想によっても、その課題は違ってきます。

純粋に無給ボランティアで地域の小さな課題を拾い上げるシビックテックを進める人にとっては、共に行動するメンバーを見つけるのが課題かもしれません。最初は情熱で始まった活動が数年すれば停滞することはよくあることです。いかに熱意を持ち続けるか、実際に行動できるメンバーをいかに集めるか、に頭を悩ますことになるかもしれません。

もっと大きな社会課題を解決をしようというシビックテックを志向する人にとっては、解決に必要なリソース(お金に限らず、人や機会など)をいかに集めていくかが課題になるでしょう。もちろん、似たような事例を参考にすることは出来ると思います。ただ、どんな成功事例であったとしても、そのまま当てはめてもうまくいかないことも多いはずです。自分たちの頭できちんと考えて、自分たちの地域や目的に応用することが大切です。

シビックテックで一歩先ゆく米国では、真摯に問題に取り組んだ結果、リーン思考やデザインシンキング、ユーザー中心思考など、最先端の手法を取り入れている事例も増えてきました。これらの道具や思考を取り入れながら、真剣に自分の頭で考え行動し課題の解決に向けて努力する。その行動の結果、世界が良くなる。シビックテックの課題はより良い世界へ向けてのヒントなのかもしれません。

CIVIC TECH FORUM 2016

このように期待と課題が交錯するシビックテックですが、自分で自分の住む町を良くしたいと思われる方は多いと思います。2016年3月27日、そんな皆様を対象に東京・田町にある建築会館にてCIVIC TECH FORUM 2016が開催されました。シビックテックには登壇者も参加者も区別はありません。自らの課題を考えるための場として、また会場に集まるすべての人をネットワークでつなげ、今後のアクションに結びつける化学反応の機会、それがCIVIC TECH FORUM なのです。当日の様子は、各種Web上の記事やつぶやきにまとめられています。是非、ご自分の目でこのムーブメントを確認していただき、次のCIVIC TECH FORUM には実践者として参加することを願っています。


※この記事はHRナビの記事をCivicWaveのほうで編集して掲載しています。