
滑川里香(マチのコトバ徳島)氏 Photo by Mika Suzuki @civictech forum(CC-BY)
地方創生では子育て世代の「教育」がないがしろになっている!?田舎ママが吠える!
「田舎にこそ絶対にITが必要」「中途半端なことをしても無意味!」
現役東大生と徳島県上勝町の子どもたちをビデオ会議システムでつないだ学習塾、「上勝東大塾」を始めた一般社団法人マチのコトバ徳島の代表理事の滑川里香氏は、そう指摘します。
地方創生でよくいわれる「雇用」「移住」などはとても大切なことではありますが、「教育問題」はその土地に住んでいる人だからこそ感じる切実な問題であり、長期的な視点で考えた際にはこういった住んでいる人だからこそ感じる問題を解決していくことはもっと大切なこと。
目先や表面上のことだけに目を奪われるのではなく、今住んでいる人達がずっと住みたいと思えるよう、その人達の不安や不満を解決するという本質的イシューの大切さを気付かされたような気がしました。
新しいものを創ることも素晴らしいことですが、今あるものを大切にすることはもっと大切なんじゃないでしょうか?
■シビックテックとは
「シビックテック」という言葉を聞いたことがありますか?
「シビックテック」とは 「シビックテクノロジー」の略で、"テクノロジーを活用し、市民の手で地域の課題を解決をすること" ですが、いまだ曖昧な概念です。「テクノロジー活用」を、「技術活用」と捉えるひと、「IT活用」と捉えるひと、「アプリ開発」と捉えるひと、「オープンデータ活用」と捉えるひとなど様々います。そんな曖昧な言葉だからこそ、いろんな方にシビックテックについて語っていただき、考えてもらうイベント「CIVIC TECH FORUM 2015」が3月29日(日)に科学技術館にて開催されました。
ただ、シビックテックにおいて大切なことは「市民の手で地域の課題を解決する」という後半部分のはずです。今回のイベントで話された中で私が一番印象的だった講演「四国で一番小さな町:徳島県上勝町の取り組み」は、身近な地域課題を自分達のできることで解決したとてもいい事例だと思いますのでご紹介したいと思います。
私自身は、シビックテックでいう ”テクノロジー"は IT、つまり "Information Technology" に限らないと思っていますが、ITの発展により市民の手で解決できることは確実に増えたと思っています。この講演はITというテクノロジーを活用して、地域の課題を解決するための必要なポイントも語られているとてもいい講演だと感じています。
お話をしてくださったのは、一般社団法人マチのコトバ徳島の代表理事の滑川里香氏。「過疎地域をなんでもいいから元気にしちゃおう!」という活動をしている方で、とても気さくで飾らない方でした。
■上勝町の産業「彩(いろどり)」について
まずはじめに、上勝町についての説明がされました。上勝町は徳島県のほぼ中央部に位置している人口1733人の小さな町で人口の半分以上は65歳という高齢者の町です。
その上勝町の一番の産業は "つまもの" です。つまものとは、日本料理に添えられている葉っぱのことで、上勝町では「彩(いろどり)」という商品名で販売しています。上勝町のつまものは、全国の7割程のシェアをもち、平均年令70歳にて年商2.6億円の売上をあげているそうです。
「自宅の作業場にPCを2画面使って、市況をみたり注文をとる78歳のおばあちゃんもいます。自宅のPCで注文がとれれば、市場でせりにかけられるよりも値が高くなり、所得が高くなるためです。情報をみながら、何が売れ筋なのか?も確認しています。儲かることがわかると、タブレット端末も使い始めました。そして年商1千万円を稼いでいるおばあちゃんもいます。貧欲でしょ」(滑川氏)
と、おばあちゃんたちは、自分たちにメリットがあれば、積極的にITを活用する様子を語りました。

■保護者たちのアツイ想いから生まれたボトムアップの取り組み「上勝東大塾」について
世間的に見たら、「地域活性」「ICT利用」の好事例に見える上勝町ですが、滑川さんは現在の課題を示されました。それは子育て世代の「教育」がないがしろになってしまっているということです。
上勝町の人口は現在1733名。子どもが産まれたり、Iターン者で移住したりする数よりも、高齢者が亡くなっていくスピードのほうが早いため、人口は減っているそうです。そして最近はその傾向がより強まっているとのこと。
「上勝町には高校がないため、高校進学の際に子どもが町をでます。その際は、寮に入る形が多いため転出は1人です。ただ、最近はターニングポイントが下がってきており、中学進学時に世帯ごとでていく形に変化しています。1世帯4人だとしたら、4人が中学進学時に転出してしまうのです。それはなぜか?過疎地域の親は、教育にものすごく不安を抱えています。上勝町には塾がありません。なので、都市部の塾に往復2時間かけて通ってみましたが、親も子どももクタクタになりました。なので自分で塾を作ろうとおもいました。」(滑川氏)
教育問題が、町の人口減少や過疎化のスピードを早めており、これらの解決には、過疎地教育に対して漠然とした不安を抱えている親世代の不安を解消することの重要性と、自分の苦しい経験から上勝東大塾を作られた経緯を教えてくださいました。
「上勝町に来てくれるような先生はきっと人気のない先生で、そんな人に教えてもらっても意味がなく、中途半端なことをしたら町から人は出て行くばかり。あわよくば流入人口を増やせるようなキャッチーで町を売り込むようなことはできないか?と考え、ビデオ会議システムを使って現役東大生に勉強を教えてもらおうと考えました。地方創生は「雇用」や「移住」のことばかりで、子育て世代の「教育」がないがしろになっていると思います。上勝東大塾は、保護者たちのアツイ想いから生まれた、ボトムアップの取り組みになります。」(滑川氏)
上勝東大塾は、東京の現役東大生と上勝町の子どもたちをビデオ会議システムでつなぎ、毎週小学校4〜6年生を1学年1コマずつ開催しています。必要な物はTVモニター、カメラ、集音マイク、PCだけ。今はNHKや日経など、各メディアから取材の申込が絶えないそうです。
「田舎だからしょうがない」といった考えはなく、妥協せずに出来る範囲で自分の理想を追求したからこそ得た結果なのかなと思います。

■田舎には絶対にITが必要!
地域格差が教育格差につながっていたけれど、ICTをつかって格差がなくなった上勝東大塾を例に上げ「田舎には絶対にITが必要です!」と滑川さんは力強く語りました。 しかし田舎にIT企業がはいってくると田舎の人は壁を作ってしまうため、田舎でITを使えるコツをいくつか教えてくださいました。
●地域への想いの強いキーパーソンを探すこと!
選ぶ人を間違えてしまう傾向があることも指摘され、間違えないためには、「住まなくてもいいので、地域に密着してください。」とのこと。
●自分たちが儲けることをチラつかせない
自分たちのビジネスを前に出し過ぎると、地域の人は去っていきます。「必ず地域の人達を主役にしてください。」とのこと。
●ITの利活用によって地域の人達が「得すること」が大事
儲けることをチラつかせてはいけないけれど、地域の人が「得すること」はとても大切で、便利なだけではだめとのこと。上勝東大塾でいえば、テストの点が上がるということも一つの得になります。
●「ないもの」「できないこと」にITを使う!
本当に必要なものはなにか?を考え、ないものやできないことにITを使うこと。
●ITだけではダメ
「ITだけで終わらせないで、絶対にアナログなものつけてください。上勝東大塾ではTV会議ではFace to Face です。また来週には子どもたちを東京に連れて行き、赤門をくぐらせ、講師の方々にも会わせる予定です。」とのこと。
●地域に根付くこと!地域の人たちの「信頼を得る」こと!
田舎では仕事が1割、コミュニティが9割
その中でも、地域に根付き、地域の人達を主役にして、地域の人が得をすることを伝えることがとても重要だと強調されていました。
━ 蛇足 ━━━━━━━
今回の滑川さんのお話で感じたことがいくつかありました。
まず一つ目は、目先や表面上のことに目を奪われるのではなく本質的な問題を考えて!ということ。
地方創生でよくいわれる「雇用」「移住」などはとても大切なことではありますが、その土地に住んでいない人でもわかりやすい数字や言葉であり、会社に例えると経営指標的なものかなっと思いました。
滑川さんのお話する「教育問題」はその土地に住んでいる人だからこそ感じる切実な問題であり、会社でいう従業員満足度みたいなもので、長期的な視点で考えた際にはこういった問題を解決するほうが重要だと感じました。
マーケティング的な言い方をすると、既存会員の継続率が悪ければ、どんなに新規獲得をしても意味がありません。目先や表面上のことだけに目を奪われるのではなく、今いる人達の満足度をあげるという本質的イシューの大切さを気付かされたような気がします。
2つ目は、自分から制限を作らない考え方のすばらしさ。
「田舎だから…」といって妥協しないで、その制約をテクノロジーを使って格差をなくしていく発想力。人は何かと言い訳をつくりたがります。出来ない理由を探しがちです。そうではなく、どうしたら制約がなくなるのか?逆にアドバンテージにできないか?という発想の仕方は素晴らしいと思いました。「中途半端なことをしても無意味」という言葉はまさに全てのことに通じる言葉だと思いました。そして無理することなく、自分のできることとからやってみる点も素晴らしいです。あるもので最大限出来る事を探す。
冒頭でもお伝えしましたが、私自身、シビックテックでいう ”テクノロジー" は IT、つまり "Information Technology" に限らないと思っていますが、ITの発展により市民の手で解決できることは確実に増えたとも思っています。今回の上勝東大塾で必要だったものは「TVモニター、カメラ、集音マイク、PC」だけです。ITはスタートのハードルをさげ、いろんなことをはじめられる可能性を広げていると思っています。
3つ目は、田舎でIT活用するためにはIT以外の要素がとても重要ということ。
頭では田舎にこそIT活用が必要だとわかっていても、なかなか実施できない様々な壁。田舎でITを活用するためには、「ITで◯◯が可能になります」だけではだめで、地域に根付き、地域の人達を主役にして、地域の人が得をすることを伝えるなどのIT以外の要素がとても重要。
「出る杭が打たれるのが田舎」と表現しているように、出る杭になっちゃだめなんです。IT活用のためにはエンジニアやITに詳しい人だけでなく、むしろITに詳しくない人のことをどれほど理解できているのか?が大切であり、「田舎では仕事が1割、コミュニティが9割。」という滑川さんの言葉の通り、コミュニケーションがとても大切なんですよね。
※この記事はTheWaveの記事をCivicWaveのほうで編集して掲載しています。