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福岡に本社を置く西日本鉄道株式会社(以降、西鉄)は、同社のバスの運行情報を表示するアプリ「にしてつバスナビ」に福岡のベンチャー企業「からくりもの」が開発したアプリ「バスをさがす 福岡」をリニューアルし、採用することになりました。

「バスをさがす 福岡」というアプリは、「からくりもの」が2日間の合宿で、「こんなアプリがほしい」という思いで勝手に開発した非公式アプリです。勝手に開発したアプリが、公式アプリとして生まれ変わることは、異例中の異例だと思います。自分たちがほしいという理由で、企業のデータを利用してアプリを作り、そのアプリがその企業の公式アプリになる。すばらしいことだと思います。こうした動きが、これからもっともっと増えていけば、ステキだなって思います。

■「バスをさがす 福岡」とは


「バスをさがす 福岡」は「からくりもの」という福岡のベンチャー会社が、地域課題解決というテーマで行った社内合宿からうまれたアプリで、西鉄バスのWebサイトの情報と国土交通省提供のバス停の位置情報の組み合わせで勝手につくられたアプリでした。しかし、「福岡の便利なバスを活かしたい」として生まれたこのアプリは地元のみなさまに利用され、約1年間で5万DLを超えるという支持をうけました。

公式サイトとして生まれ変わる前は、出発地点のバス停と目的地のバス停を指定することで 「どの路線番号のバスに乗ればいいか/目的地に何時に着くのか/運賃はいくらか/ 待っているバスは、今どの辺りか/どのバス停に止まるのか」 などを簡単に確認することができました。

福岡は、街で見渡せば必ず数台のバスを見つけることが出来るほど、バスの運行が発達した都市。乗りこなすことが出来れば大変便利な交通手段なのですが、待っている間も「もうバスはいってしまったのか?」といった不安があったり、路線やバス停名なども複雑で、どこで乗り降りすればいいかがよく分からないなどの問題がありました。「バスをさがす 福岡」は、時刻表よりも遅れているバスの運行状況や遅延情報も表示することで、何時頃着くかの把握もでき、そういった不安を解消するサービスとして市民に支持されてきました。

このアプリは「データがあるから作ったのではなく、データがなくても市民が必要としているものを求め、とにかく作った。」という点が評価され、日本最大級のアプリコンテストであるMashupAwards9のシビックハック賞も受賞しました。(※シビックハック賞とは「地域課題の解決に貢献した作品に贈られる賞」になります。)

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■実績を残したアプリを採用するメリット


今回の「にしてつバスナビ」は、「バスをさがす 福岡」のver2.0のようにみえますが、西鉄側のシステムを利用して完全に作り直した「にしてつバスナビver1.0」になります。制作には1年かかったそうです。
作られたものにちょっとした手を加えて、短期間で開発したというものではありませんが、「バスをさがす 福岡」の運用で得られた、App Storeでの意見をはじめとしたユーザの意見、そしてそのノウハウが全てが反映されています。今回、公式サイトとして採用され、正式に様々なデータを利用し、作り直すことができたため、「バスをさがす 福岡」のユーザー要望で多かった
 ・乗換検索
 ・日時指定検索
 ・高速バスの対応
 ・住所と住所でバスを検索したい
を実装することができたそうです。これらの機能は、西鉄側へのサーバ負荷の懸念や権利関係の問題から勝手に作られたアプリでは実装が難しいとされていた機能でした。

既存のサービスを公式アプリとして再リリースする。これはある意味理想的な形ではないでしょうか? フィジビリティが行われた状態でリリースができるわけです。
使われるかどうかわからないものに対して、大きなお金をかけ、その予算をとるために架空の数字を作り上げ、時間をかけるのであれば、使われた実績のあるものを採用したほうが、予算もとりやすいし、確実なのではないでしょうか。さらに、すでにユーザーもいますし、ノウハウもたまっています。
そして今回の公式リリース化にあたり注目すべきは、西鉄がからくりものに報酬を払い公式アプリにしたという点です。このような関係性は、ベンチャー企業にサービスの継続の力を与えることになり、採用した企業側は軽いフットワークと新しい技術力が手に入ることになり、両社にとってメリットのあることと思います。
さらに素晴らしいと思うことは、西鉄側から「こういったものを作ってほしい」といわれて作り直されたわけではなく、自分たちが望む形でリニューアルがされ、それを支援してもらうという関係性になっており、共同で作り上げているところです。自分たちだけで運用していくよりも自由度は落ちたかとは思いますが、それでも自分たちの作りたいものが作ることができ、金銭的な援助も受けることができ、今まで利用してくれていたユーザの希望もかなえやすくなった今回の関係性は、今後ほかの大手企業×ベンチャーでも増えていくといいなと思います。


━ 蛇足 :めんどくさいこというよ!━━━━━━━
「バスをさがす 福岡」は、「公式のAPIなどは公開されていない」「バス停データは3年前のものしかない」など、様々なネガティブな要素をはねのけながら作成されたアプリです。 からくりものは、そのネガティブ要素をはねのけながらも、信念をもってサービスを作りましたが、もしも西鉄がオープンデータ化していたのであれば、このようなアプリはもっとはやくうまれていただろうなと思いました。そして、市民が自分たちの手で自分たちが必要と思うサービスを作ることができるチャンスがひろがるという、オープンデータの可能性もみたような気がします。

また、今回のこのアプリは、短期間の社内合宿でうまれたアプリです。現在、様々な場所でハッカソンが行われており、数日でサービスが開発されていたりしますが、一般公開されるもの、サービスが継続されているものはあまりありません。サービスは、生き物です。生まれただけではだめで、使われながら成長していくものだと思っています。
社内合宿から作られたこのアプリは、作られて終わりではなく、ユーザー獲得、運営、プロモーションを地道につづけ、リリース後もユーザーの意見を聞きながら改善・機能追加を繰り返してきました。このように継続したからこそ、今回のような素晴らしい結果に結びついたのだと思います。
ただ、継続には資金が必要です。ハッカソンなどで作られたすばらしい作品を、作っておわりにするのではなく、継続させるために支援する企業があらわれたら・・・、そしてその作品がユーザーに支持された場合、今回のように仕事としてつながることができたら・・・いいサービスはもっと生まれてくるのではないかと思ったりもしました。

今回の動きに関して個人的にすごく感じたのが、福岡ITコミュニティの存在の大きさです。福岡に住んでいないわたしがこのアプリに出会ったのも、福岡のITコミュニティを盛り上げている「スタートアップサポータズ」の一人に紹介されたからです。地元のすばらしいサービスや活動を外の人に紹介していき、またその作品が評価されたら一緒に喜んでくれる人がいる。そんな温かいコミュニティとともに作った実績としても、とてもすばらしいと思っています。

※この記事はTheWaveの記事をCivicWaveで編集して掲載しています。