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本当の課題が見えただけじゃない。課題を解決しただけじゃない。市民の自発的な活動へもつなげていった「ひぐまっぷ」

今回ご紹介するサービス「ひぐまっぷ」は、ヒグマ出没に関する情報整理作業の効率化を目的とした、行政担当者向けのシステムです。今年の3月に行われた「ICT地域活性化大賞2017」では、優秀賞も獲得しました。
今でこそ「行政担当者向けシステム」となっていますが、当初はそれを目的として作られたわけではありませんでした。様々な人との出会いから、本当に困っている課題を発見し、それを解決していく形へと変化していったのです。そして、それだけではありません。
北海道森町ではデータを公開する動きへと発展し、そのデータを使って市民がより使いやすい形のサービスを開発するところまで発展していきました。

そんな「ひぐまっぷ」の成長過程を取材したのでレポートしたいと思います。


ひぐまっぷとは

「ひぐまっぷ」とはヒグマ出没に関する情報整理作業の効率化を目的とした、行政担当者向けのシステムです。主な目的は、以下の2つの課題解決になります。
 仝Φ羮紊量簑蝓Г劼阿渊佶彎霾鵑慮Φ罐如璽燭寮催戮低い・即時性がない 
 行政上の問題:出没発見から報告までの処理工数が多い、紙やデータなどの多重管理問題
これらの問題を「ひぐまっぷ」は以下のように解決しました。
 仝Φ羮紊量簑蝓Д織ぅ爛蝓爾暴佶彎霾鵑わかるシステムを導入し精度をあげる
 行政上の問題:クラウドベースの入力システムから、ワンボタンで指定形式に出力し、市町村作成書類をワンソースに

市町村での作業が入力だけになり、「ひぐまっぷ」を利用している森町では、大幅な事務量の削減(人件費は66%減)がされていると先日のICTサミットで発表されました。
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(出典:ICTサミット発表資料)


「流行りのツール使いたい」という想いから生まれた「ひぐまっぷ」


「ひぐまっぷ」が作られたきっかけは2013年のオープンソースカンファレンス 2013 Hokkaido(以下OSC)のオープンデータハッカソンです。エンジニアである川人隆央さんが、FOSS4G HokkaidoというGISのカンファレンスで「Ushahidi」というGISツールを知り、「そのツールを使ってみたい」というエンジニア的興味から始まりました。川人さんは、もともとFixMyStreetJapanという市民協働システムの開発をしており、テクノロジーの力で、地域の課題を解決することに興味を持っている方でした。「Ushahidi」というGISツールを利用して、北海道ならではのものを作りたい!と想い、「ひぐまだ!」という発想へつながったとのこと。
この時点では、出没したひぐまの情報を地図上にわかりやすく表示するというビジュアライズの機能を実装することへのチャレンジにとどまっていました。OSCハッカソンの1日だけでは実装できなかったため、翌日のMashupAwardsのハッカソンにも参加し、継続して開発を行い、やっと見せられる段階まで開発を進めることができました。
2日間で作られたものは、下記のMashupAwardsのハッカソンレポートのとおりです。
引用)ひぐま出没レポートを書くと、そのエリアであがったレポート件数などが地図上に表示され、地図をズームしていくとレポートを読むことができます。
札幌では昨年秋、ヒグマが大量出没しましたが、役所の情報表現がへぼい。なのでリスクを明確に図化することで共有し、市民も協力できる仕組みを考慮して作られました

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OSCでこの作品を作った際、ハッカソンに参加していた人に「ヒグマに詳しい人知ってるよ」とMIERUNEの古川泰人さんをご紹介いただいたとのこと。古川さんは、ヒグマに詳しいだけでなく、「札幌でGISと言ったらこの人!」という方でもあります。
早速古川さんにサービスについて相談したら、当時北海道大学の教員を勤めてた三島啓雄さんを紹介いただき、3人で打ち合わせをすることになりました。そして、三島さんから、「ひぐまっぷ」を道総研(北海道立総合研究機構)へ提案してはどうか?という流れになったそうです。三島さんは元道総研に勤めており、そこでの研究の可能性を見出したのです。道総研では、市民とヒグマの間で多くの軋轢を産まないために、ひぐまの行動分析や生態を研究しているのです。


本当の課題との出会い

道総研への提案時点での「ひぐまっぷ」は、ひぐまの出没レポートを図化して市民と共有し、市民の協力できる仕組みを生み出すというサービスでした。しかし道総研に提案に行った際、そのニーズがないことがわかりました。
ニーズがないというよりは、「畑や作物などの個人情報が公開されてしまうリスク」「観光への風評」などの理由で、データは簡単には公開できないという実態があることがわかったのです。

一方でひぐまの出没情報が道総研へ届くフローが、ひどい場合だと1年前の情報となってしまう課題があることを認識しました。ヒグマが出没したら、目撃した住民が電話などで市町村へ連絡します。市町村はその情報が確かがどうか調査をし、正確な情報だけを記録します。しかし、その記録が道総研を含む関係各所に共有されるのは年に一度だというのです。それでは、情報が届いた際に、より正確な情報を住民にヒアリングしたくても、昔のこと過ぎて目撃した住民も正確な情報をフィードバックできません。
道総研としては、その時間軸では研究のデータの精度に問題があると感じていました。
また行政(市町村)の課題として、報告の際には3号様式といわれるフォーマットにそって入力して報告しなければならず、その作業は大変という課題も見えました。
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そこで、「ひぐまっぷ」の目的は、「情報の可視化・共有」から、「仝Φ飜未任離如璽深集の精度・即時性の改善」となり、その副産物として「行政の業務も改善される」という2つの目的のためと変化しました。

市町村は、通報があれば調査後すぐに出没情報を「ひぐまっぷ」へ入力します。そして、それらの情報を管理している各所(振興局、北海道、道総研)へ通知がいき、各所はボタン一つで3号様式のフォーマットで確認ができるのです。
「ひぐまっぷ」導入による即時性は、記憶の新しいうちに、調査しに行った市町村担当者とコミュニケーションをとることを可能にし、解析に重要な情報の不明点の解消を可能にしました。また、WEB GISで統一された地図を利用していることは、出没地点によってバラバラの地図で確認されていた頃と比べるとデータの精度が向上され、自治体サイトのWEBページへの地図の埋め込みをも簡単にしました。
市町村担当者からは、会議での地図づくりが楽になったこと、報告フォーマットへの出力対応の手間がボタン1発で解消されていることなどが評価されました。
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オープンデータ→市民がLINEBOTを勝手に制作という広がり


「ひぐまっぷ」は現在20の市町村で活用されていますが、初の実証実験は2016年に北海道森町と八雲町からはじまりました。その森町ではヒグマの出没情報をオープンデータとして公開しています。[森町のヒグマ出没情報ページ]
オープンデータにしたことにより、さらなる発展がありました。それは、市民エンジニアがそのデータを利用してLINEBOTを作成したのです。その名も「ひぐまっぷBOT」。
ひぐまっぷBOTは、一般の利用者からも報告を容易にし、より密度の高い目撃情報を集められるようなプラットフォームを考えられ作られたサービスです。


今後のさらなる発展性について


上記のように、「ひぐまっぷ」は最初の目的とは違った展開が次々と訪れ、今の形へとなっています。
このサービスのきっかけを作った川人さんは、以下のように語っています。
ヒグマの出没情報は、様々な理由があり簡単には公開はできない現状。それらのデータを公開するかどうかは、各市町村に委ねられる。現在の「ひぐまっぷ」の基盤システムは、オープンデータとして公開するためのAPIなどは準備されてはいないけれど、森町は別でシステムを作成し、オープンデータ化している。
しかし、森町のようにオープンデータを希望する行政が多ければ、基盤システムの方で簡単にデータを出力できるAPIなどを作ることも可能なので検討してみたい。

また、「ひぐま」のデータをオープンにすることは、さまざまな課題も存在するが、このシステムの構造を活かせるのは「ひぐま」だけではないはずだ。例えば「いのしし」など、獣害データの中身を変えることで、他の地域の課題を解決できる可能性も秘めているはず。
そして、ひぐまの報告だけでここまでの課題を抱えていた。きっと行政の報告フローには、同じような問題が山程あるのだろう。そんなものの解決にも役立てたらいいなと思う。


先日のCIVIC TECH FORUM 2018でも「ひぐまっぷ」の発表はあり、こちらの記事に書かれていることが話されているので、是非川人さん本人の発表もご覧いただければと思います。(10分です)



 
蛇足

今回の事例は、自分の活動を発表したことがきっかけで人を紹介され、人のつながりから本当の課題が見え発展していき、さらなる人との出会いによって、違う市民の自発的な活動へと結びついていった、とてもいい事例だなーと感じています。
作品を発表すること、情報をオープンにすることにより、計算しなかった「何か」が生まれます。そして、「流れ」は必ず人がもってきます。

私は最初「ひぐまっぷ」というサービスに興味をもち、この話を取材にいきました。しかし、取材後にみなさまに一番伝えたいことがかわりました。サービスの紹介ではなく、このサービスの成長過程を伝えたいと思ったんです。
本当の課題が見えただけじゃない。課題を解決しただけじゃない。市民の自発的な活動へもつなげていったこの成長過程が素晴らしいなと。そして、それは一人のアクションから始まり、そこから波動のように広がっていったのです。(実は、CivicWaveのロゴも、一人のアクションが波動のようにひろがっていく様子を意味しています。)

そんな広がりを見せたのは、川人さんの人柄も起因していると思っています。そして類は友を呼びます。ひぐまっぷに関わってくる方たちって、みんな川人さんみたいに素敵な人達ばかりなんです。すごくいいチームだなーと。
「CIVIC TECH FORUM 2018」ではそのあたりのことも話されていますので、是非動画をご覧になってください。





著者プロフィール:鈴木まなみ(@rin2tree
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CivicWave運営メンバーの一人。
2歩先の未来をよむブログメディア「TheWave」の湯川塾の事務局を務め、テクノロジーの最新動向をウォッチしながら、コミュニティ運営や執筆活動中。
また、MashupAwards8〜11の事務局を務め、内外のコミュニケーション全般を担当。