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「情報は相手が受け取ってはじめて情報となる」
保健師として現場をまわり、多くの課題に触れている能勢氏には、限界集落のお年寄りたちにITを利用してもらうための工夫について「知っている人が知っている言葉で情報を伝えることが大切。そして会いたいなぁという気持ちと、日常に取り入れるということが重要です(能勢氏)」と語り、「ITは点在と孤独を解決する術になると思っています(能勢氏)」とITへの期待も話してくれました。

「行政は裏方でいい。市民が判断できる材料を揃えていきたい」
現在のちばレポ運用では、修繕の判断は市職員の施設管理のノウハウによってすべて行政がしています。しかし、将来的にはそれすら市民が判断し、行政としての役割はその判断材料を揃えることだと思うという考えを語ってくれました。

能勢氏は現在保健師でありながら、部署の移動をきっかけに、ITに触れるようになりました。村川氏は土木職ながら、現在はオープンガバメントの推進やシビックテックに取り組んでいます。そういったITに詳しくない人たちがITに関わるようになることで、シビックテックに広がりが生まれていく気がします。


セッションの背景


CIVICTECHFORUM2016」のこのセッションは、筆者でもある私(鈴木まなみ)が担当しました。テクノロジーを使ってローカルにおける課題にチャレンジしている事例を、「交通」「防災」「高齢者」「市民協働」など、様々な角度からご紹介したいと共に、実はそれぞれに裏メッセージがありました。

高齢者課題としてお話いただいた肝付町役場企画調整課参事兼福祉課保健師の能勢佳子氏は、とにかく現場で課題をたくさん抱えている人。その課題を解決したくてテクノロジーを利用し、利用してもらうための現場の工夫やリアル感を感じて欲しかった。
市民協働としてお話いただいた千葉市役所市民局市民自治推進部広報広聴課の村川彰久氏は、サービスを運用することではなく、サービスを運用した後も大切ということをお伝えしたく、お話いただきました。

このセッションは4つのセミナーがあり、盛りだくさんなので「交通|防災」と「高齢者|市民協働」の2つにわけてレポート、このレポートは後半部分のレポートになります。

少子高齢化の未来はここにある!日本の未来を知りたいなら肝付へ! by能勢佳子


能勢氏の保健師という仕事は、社会全体の努力をどうひきだすのか?という黒子的仕事であり、生活弱者の方達と接し、現場の中にある課題を毎日感じながら仕事をしています。企画調整課に移動になったことで、同課の情報政策係と協働しやすくなり、ITと関わるようになったとのこと。
肝付町の人口ピラミッドと2060年の日本の人口ピラミッドはほとんど同じ。そんな50年後の未来のある「肝付町」において、ITを使って何を感じたのか?をお話しされました。
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能勢氏のITとの出会いは東日本大震災。その際に集落に住んでいる市民の点在と共助の限界を感じたそうです。

「地震がおこり、津波が肝付町にもくるので避難してくださいという情報がTVで流れました。避難して欲しいということを集落の一人ひとりに電話をして伝えましたが、全員と話をしたその時には津波の到達時間でした。幸いなことに大丈夫だったのですが、この出来事で改めて気付かされたことがあります。それは、情報は相手が受け取ってはじめて情報ということです。TVでどんなに情報が流れていても、みんなに伝わっていなかったんです。一部の人が分かる情報ならば後は人が伝えなければいけない。受け取る人がわからない言葉は情報ではない。受け取る人がわからない技術は役に立たない。受け取る人がわからないシステムはいざというときに機能しません。
知っている人が知っている言葉で情報を伝えることが大切。そして顔が見たいな...。ということでTV電話がある!と思いつきました。(能勢氏)」


この出来事から、TV電話というテクノロジーを使うだけでなく、大切なときに情報を伝えられるためにTV電話を利用してもらう取り組みが始まったそうです。その取り組みの内容も、テクノロジーがわからない人が利用できるための気配りがとても含まれています。

「お年寄りは、タッチしたら何が起こるのかわからなかったら押しません。なので"おはようタッチ”というものをつくり、今日もお元気ですか?お元気でしたらここをタッチしてください。というインターフェースにし、まずは触れてもらうようにしました。お年寄りがタッチするとメールが飛んできます。その情報を元に、訪問時には、最近起きるのが遅くなったね。押してくれてありがとう。など伝え、見てること、つながっていることを伝えるようにしました。
また、TV電話をさらに使ってもらうよう、10時と15時に介護予防ビデオ体操を実施しました。その介護体操には、現場にいったボランティアの人達に出演してもらい、実際にあった人とTVで会えるという工夫を取り入れました。
ここで重要なのは、会いたいなぁという気持ちと、日常に取り入れるということです。情報を受けとめるには困りごとを認識していること、解決できるツールには馴染みがどこかに必要で、新しい物には共に過ごす時間が必要です。(能勢氏)」


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(左:TV電話を笑顔で使うおばあちゃん|右:動かないPepperを励ますみなさん)

また、Pepperのアプリを開発したエンジニアが肝付町でPepperを動かそうとした際になかなか動かず、それをみていたお年寄りたちが、1時間待った上に、Pepperを励ます様子の写真(上右写真)を会場に見せ、

「Pepperがうまく動いた時にみんなで喜びました。みんなが同じ気持ちになった時、認知症も車いすも気にならない空間がそこにはできていました。ITは点在と孤独を解決する術になると思っているので、ロボットとも、違う地域の人ともどんどんつながって、できれば支えあいたいです。是非、みなさま肝付にきてください(能勢氏)」

と力強く会場に訴えました。

当日のスライドはこちらからご覧いただけます。



ちばレポから見るシビックテックのこれから! by村川彰久氏


ちばレポとは、千葉市が運営しているサービスで、市民であるちばレポサポータがアプリを使って公園の不具合や、道路の不具合などのレポートを送り、それレポートをもとに、行政や、他の市民の方がレポートされた課題解決に取り組むという課題共有サービスです。千葉市は、このサービスを約1年半運用しており、そこから見えたこと、感じたことを、村川氏にお話いただきました。
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「現在のちばレポを運用して約1年半が経ち、参加登録者数は2016年2月末時点で3,615名にとなりました。30〜50代の男性の参加が多く、行政とのつながりが薄かった世代との接点ができました。ただ、千葉市の人口は97万人です。利用していただいているのはたがだか0.3%の市民なので、もっと利用者を増やしていきたいと思っています。レポート数は2,644件となり、70%が道路に関するレポートになります。例えば雨の日、道路が冠水し通行しずらいというレポートなどは、リアルタイムで現地に見に行かないとわからない問題なので、大変助かります。(村川氏)」

そして、レポートはとても重要な情報源だけれど、重要度がかわらないため、対応の優先度がなかなか決めづらいという問題があるそうです。

「投稿された内容は、行政目線で見て、今すぐ対応すべきものなのか?そうでないものなのか判断が難しく、投稿側としても今すぐ対応してほしいのか?どのように対応して欲しいのか?というニーズもわかりづらい点があります。ただ、軽微と思われる案件も軽視はできないので、何でもレポートしてもらうというスタンスの上で、対応の優先度評価を自動的に行う仕組みについて、東京大学と共同研究を進めています。そして大量のレポートでも効率的な処理を可能にしたいと考えています。(村川氏)」

ただ、目指すところとしては、補修を「市民」が主体となって決めるという形にしていきたいとのことで、そのための材料を行政は揃えていくべきとの考えを語ってくれました。

「損傷の度合いと修繕の必要性を、行政の判断だけでなく市民との共通認識にしていき、優先度を決めていけるようにしたいと思っています。つまり、行政としては、市民が決めるための判断材料(修繕コストや経済合理性など)を提示したり、市民同士が話し合える場を作ったりして行くべきではないかと思っています。その判断材料の一つとしてちばレポのデータを先日公開しました。またそういったデータを活用できるエンジニアとつなぐ橋渡しもしていきたいと思っています。(村川氏)」

当日のスライドはこちらからご覧いただけます。




グラフィックレコーディング


こちらの講演のグラレコは以下になります。
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講演動画


講演も動画で振り返り可能です。能勢さんのセッションの動画は29:30〜、村川さんのセッション動画は49:20〜となっております。