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地元に技術を提供し、日本の課題解決をしたい。
地域の公共交通を支えなければという使命感でがんばっているものの、経営陣が不眠不休で瀕死状態である地元のタクシー業者の継続的運営に技術を活かした徳島の事例。

市民独自のハザードマップを作ってもらいたい!
オープンなデータでハザードマップ作成し配布するだけでなく、将来的には市民にも独自のハザードマップを作ってもらうところまで考えて運用している会津若松市の事例。

もともとはハッカソン好きなエンジニアと、地図好きな職員が、自分のプライベートな得意分野を活かし、地域の課題解決にチャレンジした事例で、公私のグレーゾーンをうまく活用しているところが素敵です。好きや楽しいから生まれるパワーが地域に貢献されるのっていいですよね。シビックテックって義務感からがんばってやるものではなく、できるところから始めることも大切で、2人のように得意分野が喜ばれると、楽しみながら活動でき、実績もうまれるのかもしれません。みなさまも自分の得意分野、好きなことを改めて考えてみてください。そして誰かとそのことについて会話してみてください。自分にとっては当たり前でも、他の人からとったら貴重な経験やノウハウなこともあり、それが地域貢献に結びつくかもしれませんよ。


セッションの背景


CIVICTECHFORUM2016」のこのセッションチェアは、筆者でもある私(鈴木まなみ)が担当しました。テクノロジーを使ってローカルにおける課題にチャレンジしている事例を、「交通」「防災」「高齢者」「市民協働」など、様々な角度からご紹介したいと共に、実はそれぞれに裏メッセージがありました。

交通課題としてお話いただいたCode for Tokushima代表の坂東勇気氏には、利益だけを追求する企業では、採算のあわないエリアは稼働しないという結論になりますが、地域課題を解決したいという想いをもった地域のエンジニアだからこそできる取り組み事例としてみなさまに聞いて欲しかった。
防災課題としてお話いただいた会津若松市市民部危機管理課の目黒純氏には、プライベートの趣味としての「好き」というパワーが、行政の運用に取り込まれている、このヘンタイ職員っぷりをみなさまにお伝えして、隠れヘンタイ職員のパワーになってもらいたいと思い、今回登壇をお願いしました。

こちらのセッションは4セミナーあり盛りだくさんなので、「交通|防災」と「高齢者|市民協働」の2つに分けてレポートしたいと思います。まずは「交通|防災」のセミナーレポートをどうぞ!


「エンジニアによる実践の一例 起業もできたよ」 by坂東勇気


まずはじめは、Code for Tokushima エンジニア兼代表の坂東勇気氏のセミナーです。Code for Tokushimaのすばらしいところの一つは、身内に閉じたアイデアソンは行わず、必ず関係者を巻き込んだ専門家の意見を聞くアイデアソンを行うことで、課題の再発明を行わないところだと思っています。
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「Code for Tokushimaの代表をしていますが、最初はハッカソン好きで、ハッカソンやアイデアソンを地元にできればいいなーと思ってやっていました。徳島は行政のITリテラシーも高く、新しい物好きで、CIVICTECHをやるにはとてもいい環境。Code for Tokushimaのイベントは専門家とステークホルダーを中心に実施し、自分たちでテーマを決めません。そこで、専門家の意見をきけるので、課題の再発明は行わないことをモットーにし、地域の人がすでに取り組まれていることにはリスペクトし、手をだしません。また、アウトプット重視で、ワークショップだけで終わらず、プロダクトのリリース、行政への提言などに必ず盛り込んでもらうなどを心がけています。
CodeforTokushimaとしては、行政と利害関係のない団体として、小回りのきかない行政サービスのプロトタイピング制作支援や、お祭り的に縦割りの関係者を集めることで、行政の横串イノベーションを起こせないか?と期待しながら活動しています。(坂東氏)」


そんなCode for Tokushimaの活動の中で具体的な課題所有者に出会い、自分の技術を地域に活かすという道を切り開いた坂東氏。

「Code for Tokushimaのアイデアソンで「交通弱者アイデアソン」というものを実施しました。先人の努力(白タクライドシェア、とくし丸FC)はすごいし、気軽に取り扱えるようなテーマではないと見送りにしたのですが、実際に困っているタクシー事業者の方から僕のところにアイデアが持ち込まれました。地方タクシー会社の現状は、地域の公共交通を支えなければという使命感でがんばっているものの、経営陣が不眠不休で瀕死状態。どうにかしたいと、地元のITベンダー、フリーエンジニア、都会のITベンダー、タクシー配車パッケージ商品とあたったものの、どれも仕様があわないか費用が高いため見送らなければいけない状況。そんな相談を受け、ITを活用した業務改善で延命できるのでは?ということで、地元のタクシー会社の方とタッグを組み、開発し起業しました。(坂東氏)」

利益だけを追求する企業では、採算のあわないエリアは稼働しないという結論になりますが、地域課題を解決したいという想いをもった地域のエンジニアだからこそできる取り組みもあるのではないでしょうか。

「地方はエンジニアがチャレンジしやすい環境です。受託して開発するには割にあわない予算感で、サービスとしてもニッチ過ぎてまともな企業がやるレベルではないですが、エンジニア社長の起業のネタとしては宝の山です。自分で作ってしまえば、資金調達はいりません。大儲けできる見込みな少ないかもしれませんが、AirBnbやuberのように、課題先進地域で成功したサービスは、全国・全世界に広がる可能性も秘めています。最大の地域課題の雇用です。地方に雇用ができれば、東京の過密状態も解決できるかもしれません。地元に技術を提供し、東京の、日本の課題の解決のお手伝いをしたいと思います。(坂東氏)」


と、力強く語りました。「エンジニア社長は地方にこそ活躍の場がある!」というところまでは先行事例としてお話いただきましたが、ここから先、地方で起業するといろんな人からモテモテになるよ!かっこいいよ!というイメージまでもっていってもらい、地元の地域課題を一緒に考え盛り上げたい!と考えるエンジニア社長さんが増え、地元に技術を提供することで、日本の課題の解決のお手伝いする方が増えればいいな。と思います。



会津若松市 情報化の取り組みと防災分野へのオープンデータ活用 by目黒純氏


続いては、会津若松市市民部危機管理課の目黒純氏のお話です。会津若松市は、コンピュータ理工学部をもつ会津大学があることからもICTに強い職員が多く、ゴミカレというアプリを職員が作っていたり、OSSのオフィスソフトを使って着目を浴びたりしている地域です。GISを活用して、住民台帳をGIS上のポイントとして管理して、毎日更新し、空き家把握などにも活用しているとのこと。数あるICTの取り組みの中の一つである、オープンデータを使って作成したハザードマップについて詳しくお話いただきました。
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「平成26年6月頃にハザードマップの業務を引き継ぎました。その際、1.低コスト高クオリティの地図。2.職員による作成作業が可能。3.編集と再配布に制限がない。ハザードバップ作成を目標としました。そんな風に考えている頃、福島県砂防課からハザードマップ作成支援ツールと称して、土砂災害関連のshapeデータがCD-ROMで配布され、会津若松市オープンデータからは避難所、避難場所データが、国土数値情報からは河川浸水域データが公開されました。標高データに関しては、国土地理院のものを利用しようかと検討しましたが、配布の度に申請が必要という制限があったので、NASAのSRTM標高データを利用することにしました。そして、それらのデータを配布可能な地図であるOpenStreetMap(OSM)にインポートをし、ハザードマップを作成しました。地図本体は職員で作成しましたが、周りのデザインは地元の企業にお願いし、全体的な体裁を整えてもらいました。そして、約52,000世帯へ配布し、WEB版でも公開しております。OSMのソースデータはベクトルデータのため拡大しても荒くなりません。(目黒氏)」

OSMは地図のWikipediaといわれており、自由に作成・配布が可能な地図をみんなで作成するもの。ソースデータを入手しGISで扱うことも可能です。幸いなことに会津若松市には地図を作るマッパーといわれる人がたくさんおり、市内全域の建物、道路が整備されています。それどころか、公園のベンチや遊具、鶴ヶ城は木の1本1本まで描かれ、3Dにまでなっています。そして、何より、目黒氏自身もマッパーのひとりです。

最後は今後やっていきたい野望のお話の中で、市のオープンデータ活動と、市民協働に力を入れていきたい旨を熱く語られました。

「今後行いたいことは、ハザードマップの立体版の配布やGIS用のプロジェクトそのものの配布です。これが実現されれば、入手した市民が自分で独自のハザードマップを作成することができるようになります。そのために、配布の難しい物は排除して作成しております。
また、富田林市さんは測量データをオープンデータとして公開してOSMにインポートし、そこから業務利用しています(下図赤矢印部分)。会津若松市は市民の力で地図を作り上げていましたが、自治体が情報提供すればすぐにでもその地域のハザードマップができるはずなので、自治体のオープンデータ活動の立ち回りも重要になってくると感じています。
そして、地図は公共的であるべきだと思っています。行政情報は今後、位置情報に関連付けられるとも思っています。地図同士には必ずズレが生じ、特定地図に対するデータ向上を追求すると、データがロックインされやすくなってしまうので、それは避けるべきだと考えています。公共性の高いOSMを活用し、自治体と市民との協業の場にすることによって、高精度で公共性の高い地図を育てていきたいと思っています!(目黒氏)。」

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会場にいらした方には、鶴ケ城の3D地図を見せてドヤ顔をしている様子からも、目黒氏のヘンタイ職員ぶり(楽しそうに公務に従事している様子)は伝わったことと思います。しかし目黒氏は特別だと思いません。プライベートで様々な活動をし、公私のグレーゾーンをうまく活用して、楽しみながら地域に貢献できる道はたくさんあると思っています。そんなヘンタイ職員がもっと増えるといいなと思います。

目黒氏の発表スライドはこちらからご覧いただけます。




グラフィックレコーディング


このセミナーのグラフィックレコーディングはこちらです。
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講演の動画


ご興味をもってくださった方は、こちらからセミナーをご覧いただけます。目黒氏のセミナーは14:35〜になります。